出産手当金 と育児休業手当金。出産前に退職するともらえないお金がある?【社労士監修】

2020.05.01

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妊娠中のお金

出産前に退職すると不利なの?

結婚はもちろん、出産を経ても仕事を継続するのが当たり前のような世の中となりましたが、現在の職場についてポジティブな思いが無い方にとっては、妊娠を機に退職することを選択肢の一つとして考えるのではないでしょうか。
それは自然なことであって、損得で考えることではありません。
職業観やライフスタイルによって、選択することだと思います。

参考までに、退職する時期によってもらえなくなってしまうお金があるということは認識しておきましょう。

出産手当金(健康保険)

産休の申請についてはこちらの記事をご確認ください(▶妊娠が発覚! 産休 (産前産後休業)の申請は会社にいつ頃行う?

 

 

●出産手当金の概要

 

出産手当金とは、産休(産前産後休業)の期間中、健康保険から受け取れるお金です。概算で給料の3分の2程度の給付が受けられます。出産手当金の対象となる期間は、出産予定日以前42日から出産後56日(双子などの多児出産の場合は、出産予定日以前98日から出産後56日)で、その期間のうち勤務していない日について受給できます。
※予定日から遅れて出産となった場合には、出産予定日以前の42日と出産後56日に加えて、出産予定日の翌日と出産日の間についても受給対象となります。図1を参考にしてください。

 

▼図1:クリックで拡大

産休中に会社から給与が支払われる場合は、出産手当金から給与分を差し引いた金額が支給されます。出産手当金の額を上回る給与が会社から支給される場合は、出産手当金を受給できません。

 

出産手当金は申請すると、おおよそ2週間~1カ月程度で指定した口座に振り込まれます。加入している健康保険組合等によって期間は異なりますし、給与の支払い状況など会社の証明が必要となる関係上、会社の手続きフローによっても、振り込み時期は変わってきますのでご注意ください。

 

なお、出産手当金は健康保険の制度ですので、健康保険に加入していない場合は、受給することができません(勤務先が法人ではなかったり、短時間勤務であったりなどの理由で、加入できないことがあります)。任意継続や国民健康保険へ加入している、夫が加入する健康保険の扶養に入っている、といった場合でも同様です。

 

 

●出産前に退職する場合の出産手当金

 

ではここでようやく本題ですが、出産前に退職した場合はどうなるのでしょうか。

まず、産前42日より前に退職した場合は、出産手当金を受給することはできません。あくまで、出産手当金は休業期間で減少した収入を穴埋めする制度です。雇われて働く方が、産休によって給料が受け取れなくなることへの給付なのです。このことには、留意しておく必要があるといえるでしょう。

 

次に、出産手当金の支給対象期間に退職した場合です。産前休業が始まる出産予定日以前の42日間中に退職した場合は、退職日までの期間については受給できます。例えば、出産予定日の10日前に退職する場合、産前休業にあたる期間の42日のうち、32日間は在籍していますので、この32日間は出産手当金の受給対象となります(出産手当金は1日単位で計算されます)。もちろん、勤務した日については対象外です。

なお、
・「退職日に出産手当金の支給が受けられる状態である(勤務してない状態である。※有給休暇は可)」
・「退職日まで、切れ目なく健康保険に1年以上加入している(勤務先が変わっていても可。※任意継続、国民健康保険、公務員などの共済組合、家族の扶養に入っている期間は含まない)」
という要件を満たせば、退職後も継続して出産手当金を受給できます。
退職する場合の取り扱いについても、上部の図1を参考にしてください。

育児休業給付金(雇用保険)

出産後、法定の産後休業期間の後は、育児休業に入ることが一般的です。育児休業中は産前産後休業と同様に、給料が発生しない会社がほとんどですから、その期間について雇用保険から育児休業給付金というものを受給することができます。受給から6カ月間は概算で給料の67%、それ以降は50%の金額です。一定要件があり、例えば入社して1年未満などだと、受給できない可能性があります。

 

この育児休業給付金ですが、出産前(育休前)に退職してしまうと、全く受給ができません。雇用保険は、失業した人のためや雇用を守るための公的な保険です。育児休業を経て復帰するまでの間、企業が給料を保障しろというのは酷な話で、働いていない人に給料を払わなくてはいけないのなら、企業は女性を一切雇いたくなくなってしまいます。とはいえ、今まで当たり前のようにもらえていた給料がゼロになるのも困りものです。そこで、雇用を継続するために、企業に代わって雇用保険から支給されるのが育児休業給付金なのです。

育児休業を経て、復帰する方のための制度というわけです。「雇用保険に加入しているから、退職してももらえるはず」などと、勘違いしてしまわないように気を付けましょう。

出産前に退職した場合は、再就職活動を行う時に備えてハローワークへ!

出産前に退職した場合は、将来的に雇用保険の失業給付(正式名称は基本手当)を受給できる可能性があるので、ハローワークで手続きをしておきましょう。

通常、失業給付が受けられる期間(受給期間)は、最大で離職日の翌日から1年間ですが、妊娠・出産等の事情がある場合は、最大4年間まで延長できます。

 

※受給期間は、あくまで「受給できる期間」であって、受給期間中に雇用保険の加入期間や年齢に応じた日数分だけ給付が受けられることになります。その日数分の給付が終わった後は、たとえ受給期間中であっても、それ以上の給付は受けられません。

 

雇用保険上の「失業」とは、「働ける状態であり、働く意欲があるのに職がない状態」のことをいいます。妊娠・出産等で働けない期間は「失業」している状態ではないですから、失業給付は受けられません。とはいえ、やむを得ない事情ですから、その期間分は受給期間の延長を認めますよ、ということです。

 

受給期間の延長手続きは、妊娠中に退職し、その退職日の翌日から30日経過後に住所地を管轄するハローワークで行います。その際には、会社が発行手続きを行う「離職票」というものを持参する必要がありますので、退職の際には「離職票が必要」な旨をしっかりと伝えておきましょう。

《 監修 》

  • 木幡 徹(こはた とおる)  社会保険労務士

    1983年北海道生まれ。大企業向け社労士法人で外部専門家として培った知見を活かし、就業規則整備・人事制度構築・労務手続きフロー確立など、労務管理全般を組織内から整える。ベンチャーでのIPO準備を経て、現在はM&Aに積極的な上場企業に在籍。企業側・労働者側のどちらにも偏らない分析とアドバイスを行う。

    HP https://fe-labor-research.com/

     

     

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