2025.05.01
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百日咳は1578年にパリで流行が報告されたのが最初とされています。
1670年には初めて”per-tussis”(激しい咳を表すラテン語)が使用され、日本では1800年代(文政年間)になり百日咳と呼ばれるようになりました1) 。
ワクチンがない時代では、14歳未満の感染による死亡も多くみられていましたが、ワクチンの普及により発症率は減少しました。
百日咳は非常に伝染力の強い細菌です。
顔を真っ赤にしてコンコンと激しく咳込み、ヒューヒューと笛を吹くような音を立てて息を吸う発作が特徴です2) 。
特に乳児は重症化しやすいとされています2) 。
ワクチン接種で予防できる病気ですが、効果の持続期間には限界があり、接種済みでも感染することがあります。
通常5~10日の潜伏期間を経て発症します2) 。
鼻水など風邪のような症状で始まり、だんだん咳の回数が増えてきます。
普通の風邪の症状にみえますが、他の人への感染力が強いのはこの時期です3) 。
その後、百日咳に特徴的な「顔を真っ赤にしてコンコンと激しく咳込み、ヒューヒューと笛を吹くような音を立てて息を吸う」症状が現れます。
このような咳の発作が繰り返し起こります。
痙咳期では、乳幼児は典型的な症状がみられないこともある一方、1歳以下の乳児は咳で呼吸ができなくなり、全身が青紫色になってしまう(チアノーゼ)場合や、けいれん、咳とともに吐いてしまう、などの症状がみられる場合があります。
無呼吸、中耳炎、肺炎、脳症(脳がむくみ、機能が障害されてけいれんや意識障害などが現れる病気)などの合併症も起こりやすく注意が必要です3) 。
このような症状が起きるのは、百日咳菌が気道の粘膜で毒素を産生し、気道粘膜が損傷するためです4) 。
図:百日咳の特徴2~5)
潜伏期間 | 5~10日(最大21日) | ・飛沫感染/接触感染で感染 |
カタル期 | 1~2週間 | ・鼻水など風邪のような症状 ・他の人への感染力が強い |
痙咳期 (けいぜいき) |
約2~3週間 | ・コンコンと顔を真っ赤にして激しく咳込み、ヒューヒューと音を立てて息を吸う症状があらわれる ・繰り返し痙咳発作が起こる ・無呼吸発作 ・肺炎や脳症の合併症 |
回復期 | 2~3週間 | ・激しい咳が次第に治まってくる |
ワクチンを決められたスケジュールで接種することで、百日咳は予防可能です。
一回だけでも接種しておけば重症になりません。
しかし、その効果は3~4年5) あるいは4~12年6) で徐々に低下していきます。
百日咳は2018年1月から感染症法の「5類全数把握疾患」となり、2018年に約1万2000例が、2019年は約1万6000例が報告されました5) 。
2020年以降は新型コロナウイルス流行のためか、報告数は一桁あるいは二桁少なくなりました。
しかし、2024年は約3700例で、2020年(約2700例)よりは増えています7) 。
なお、2018~2020年に報告された感染者の年齢は0歳から98歳までと幅広く、中央値は10歳です5) 。
0歳児は全体の約5%でした。
検査は、鼻の奥を綿棒でぬぐって採取した「鼻咽頭ぬぐい液」を検体として調べます。
培養して病原体が検出できるかどうかや、百日咳菌の遺伝子があるかどうかをみます。
発症からある程度の時間が経過している場合は血液検査で、百日咳菌やその毒素に対する抗体の量を測定します。
一般的な検査では、感染症に特徴的な反応として、血液中の白血球という成分が増えることもあります。
新生児ではエリスロマイシンは肥厚性幽門狭窄症のリスクがあるため注意が必要です8) 。
カタル期に有効で、飲み始めから 5日以内に菌培養検査が陰性となることが多いとされます6) 。
痙咳期の咳を改善する効果は期待できませんが、家族内感染などを防ぐ意味で使われます3,6) 。
場合によっては、咳止め薬や気管支を広げる薬が使われます9) 。
2024年度から、百日咳・ジフテリア・破傷風・ポリオ・ヘモフィルスインフルエンザ菌b型(Hib〈ヒブ〉=インフルエンザウイルスとは異なる病原体)の5種混合ワクチンが定期接種になっています10) 。
ワクチン接種により、百日咳にかかるリスクを80~85%程度減らすことができます。この病気を制御するには予防接種が不可欠とされています。
5種混合ワクチンの標準的な接種スケジュールは次の通りです10) 。
ワクチンの主な副反応は、発熱、接種した箇所の赤みなどです。
感染した子どもと同居する家族の感染を防ぐ対策や、家庭外で感染したものの典型的な症状がなく、気づいていない成人から乳幼児への感染を防ぐ対策も必要とされます3) 。
また、手洗い・咳エチケットなど、一般的な感染対策を徹底しましょう。
登園には、特有な咳が消失している、または5日間の適正な抗菌薬による治療が終了していることが必要です。
『参考資料』
《 監修 》
松井 潔(まつい きよし) 総合診療科医
神奈川県立こども医療センター総合診療科部長。愛媛大学卒業。
神奈川県立こども医療センタージュニアレジデント、国立精神・神経センター小児神経科レジデント、神川県立こども医療センター周産期医療部・新生児科等を経て2005年より現職。小児科専門医、小児神経専門医。
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