2022.02.21
感染症の中には、妊娠中にかかると、おなかの赤ちゃんに影響が及んだり、早産や流産を引き起こしたりするものがあります。
妊娠中は細菌やウイルスに対する抵抗力が弱くなっているので、普通なら問題ないレベルの接触でも悪化してしまうことがあり、一層の注意が必要です。
早期発見・早期治療のために、妊婦健診で行われる感染症検査をきちんと受けるようにしましょう。
お母さんが持っている細菌やウイルスが赤ちゃんに感染することを「母子感染」あるいは「垂直感染」といい、大きく分けて次の3つの感染経路があります。
【妊娠中の感染】-胎内感染-
妊娠中に胎盤や羊水を経由して感染します。
【分娩中の感染】-産道感染-
分娩が始まって産道を通るときに感染します。
【出産後の感染】-母乳感染-
出産後、授乳をすることで感染します。
産道からしかかからない感染症であれば、妊娠中に治療を行うことで赤ちゃんへの感染を防ぐことができ、帝王切開でも回避ができます。
しかし、1つの感染経路だけではなく、複数の経路からかかる感染症もありますので、実際には個々の症例で適切に対応することが必要です。
また、お母さんが感染した場合、お母さん自身の症状がほとんど無くても、赤ちゃんに深刻な合併症(不顕性感染)が生じることもあります。症状のない感染を知ることはとても難しいのですが、妊婦健診をきちんと受け、感染症の知識を深めることで、母子感染の確率を減らすことができます。
▶参考:「妊娠と感染症」(厚生労働省)
(2022年1月閲覧:https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kodomo/kodomo_kosodate/boshi-hoken/ninpu-03.html)
▶参考:「母子感染を知っていますか?」(厚生労働省)
(2022年1月閲覧:https://www.mhlw.go.jp/bunya/kodomo/boshi-hoken16/dl/06_1.pdf)
新型コロナでも話題になりましたが、細菌やウイルスの感染の有無を調べる方法は大きく分けて2つ、抗原検査と抗体検査があります。
「抗原」検査では、細菌やウイルスの有無を調べます。
培養検査やPCR検査も広い意味では抗原検査と考えて結構です。
一方、人は感染した後、体の中で病気を治すための武器である「抗体」を作ります。
その抗体の有無を調べるのが抗体検査です。抗体があれば感染しにくく、また感染しても重症化しにくくなり、これを免疫と呼びます。
抗体があると、「調べた時点より数日以上前に感染した」ということは分かりますが、現在も感染しているかどうかは分かりません。
抗体がものすごく多ければ、今まさに感染したばかりで、体がウイルスと戦っている最中なのかもしれません。
スクリーニング検査という言葉がよく使われますが、これは症状のない人を対象にして、疑いのある人を速やかに見つけるための検査です。
妊婦健診はおおむねスクリーニング検査になります。
見つけ漏らしを極力少なくするため、正常な人でも検査に引っかかる確率が高くなっているものもあります。
スクリーニング検査で陽性でも、追加検査で問題ないことはよくありますので、陽性でも心配せずに追加検査を受けましょう。
妊婦健診ではHBs抗原検査をします。
陽性のほとんどが、ウイルスは持っているけれども症状は出ていない「キャリア(持続感染)」です。
妊娠中や産後に悪化することがまれにあります。
感染は主に産道感染ですが、ウイルス量が多いと胎内感染も起こります。
「B型肝炎母子感染防止対策」という厚生労働省の指針に沿ってきちんと対策することが大切です。
なお、配偶者への感染は、HBワクチンを接種することで防げます。
だいたい5~10人に1人が持っている腟内の常在菌で、お母さんにはほぼ無害ですが、分娩時に産道感染することがあります。
赤ちゃんに感染すると治りにくい肺炎や髄膜炎、敗血症などを起こします。
分娩時に有効な抗生剤を投与することで発症の確率を20分の1に減らすことができます。
抗体を持たない妊婦さんが初めてサイトメガロウイルスに感染すると、胎盤を経由して赤ちゃんにも感染し、高率で重い「感染症」を引き起こします。症状は多彩で、発育遅延や小頭症、網膜炎、先天性難聴などが出現します。
また、確率は低いですが、抗体があっても妊娠中の再感染や再活性化によって、胎内感染する可能性が1.4%程度あるのが、トキソプラズマや風疹と違う点です。
再活性化を防ぐ方法や確定した治療法はありません。
感染の機会を減らすことが唯一の予防であり、とても大切です。
TORCH症候群とは、妊娠中の感染により、赤ちゃんに重篤な障害を引き起こすことの多い感染症の頭文字をとって名付けられた概念です。
T:トキソプラズマ
O:othersその他(梅毒、B型肝炎、水痘、パルボウイルスB19など)
R:Rubella風疹
C:サイトメガロ
H:ヘルペス
日本ではサイトメガロウイルスとトキソプラズマの頻度が高いです。
トーチの会という患者会があり、妊婦さんの感染症に対する啓蒙活動を行っています。
新型コロナウイルスに感染したときの初期症状は、発熱、せき、だるさなど、いわゆる風邪症状の他、頭痛や下痢、においや味が分からなくなるなどが一般的です。
ほとんどの人は軽症のまま回復しますが、重症化すると肺炎を起こしたり、さまざまな臓器に悪影響を及ぼしたりして死に至ることもあります。
現時点では、お母さんが妊娠中に感染しても、赤ちゃんへの影響は非常に低いとされていますが、妊娠中は免疫力が低下しているので、お母さんが重症化しやすいリスクがあります。
ワクチンを接種した場合でも油断せず、日頃の感染症対策を徹底しましょう。
妊娠中にインフルエンザに感染しても胎内感染はしませんが、重症になって高熱が続くと、流産や早産の可能性が高まることも考えられます。ワクチンを接種して、重症化する確率を減らしましょう。
▶参考:「新型コロナウイルス感染症対策~妊婦の方々へ~」厚生労働省
(2022年1月閲覧:https://www.mhlw.go.jp/content/11920000/000630978.pdf)
●人混みを避ける
混雑した電車や繁華街など、人が密集する場所はできるだけ避け、飛沫感染を予防するため、会話をする際も相手との距離を取るようにします。
●手洗いやうがいをこまめにする
帰宅後や食事の前には、手洗いとうがいを忘れずに行い、調理の前後にも手洗いをします。
≪正しい手の洗い方≫
(2022年1月閲覧:https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000593494.pdf)
※手洗いの前に爪は短く切っておく。時計や指輪は外す。
①流水でよく手をぬらした後、石けんをつけ、手のひらをよくこする。
②手の甲を伸ばすようにこする。
③指先・爪の間を念入りにこする。
④指の間を洗う。
⑤親指と手のひらをねじり洗いする。
⑥手首を洗う。
●外出時はマスクを着用する
最も予防効果が高いのは不織布マスクです。マスクと皮膚の間に隙間ができないように正しく着用します。
●家族そろって感染症対策をする
感染症は家族から感染することが少なくありません。一緒に住む家族もしっかりと感染症対策を行いましょう。
《 監修 》
井畑 穰(いはた ゆたか) 産婦人科医
よしかた産婦人科診療部長。日本産婦人科学会専門医、婦人科腫瘍専門医。東北大学卒業。横浜市立大学附属病院、神奈川県立がんセンター、横浜市立大学附属総合周産期母子医療センター、横浜労災病院などを経て現職。常に丁寧で真摯な診察を目指している。
▶HP https://www.yoshikata.or.jp/ よしかた産婦人科