母乳育児 :授乳中のおっぱい(乳房)のトラブルや対処法について【医師監修】

2021.12.03

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これから母乳育児を行う方へ【監修】井畑 穰(いはた ゆたか) 産婦人科医

母乳育児 はメリットがとても多いので、「なるべく母乳で」という方はたくさんいらっしゃると思います。

しかし、いざ始めると母乳がスムーズに出ない、痛い、うまくいかないなど、いろいろなトラブルが起こって、最終的には母乳育児を諦めてしまう方も少なくありません。

子育てだけでも大変なのに、さらに母乳のトラブルまで加わっては、「とてもやっていられない…」という気持ちもよく分かります。

 

今回はラクテーション(授乳)・コンサルタントの国際資格(IBCLC)をもつ助産師さんなどにご意見を伺いながら、よくある授乳中のおっぱいのトラブルについて、具体的なホームケアや対処をまとめました。

 

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病院での母乳育児支援について

母乳育児支援は、主にラクテーション・コンサルタントの資格をもった助産師や、「日本母乳の会」などに属して知識や技術を磨いている助産師を中心に扱いが増えています。

施設により母乳支援への取り組みはかなり差があるのが現状で、毎日のようにおっぱい外来をして直接支援している所もある一方、テキストレベルの説明だけで終わる施設もあるようです。

ただし、積極的であればよいというものでもなく、手取り足取りの介入が合う人もいれば、自主的にやって方向づけだけアドバイスをもらうのが合う人もいるので、話は簡単ではありません。

 

分娩した施設で実際に指導を受けてみて合わないと感じることが多ければ、他の施設での指導を受けてみることもよいことだと思います。

母乳育児は法律でもなければ経典でもありませんので、ご自分に合ったやり方でやってみて、難しければミルクでも構わないくらいのスタンスで授乳に取り組んでみてはいかがでしょうか。

 

産後に起こりやすいおっぱい(乳房)のトラブルは?

産後に起こりやすいおっぱいのトラブルは大きく分類して下記の3つです。

 

 

①おっぱい全体が張ってかたくなり、赤くなったり痛んだり熱をもったりする。

②おっぱいの一部分がかたくなり、赤くなったり痛んだり熱をもったりする。
 乳頭の先に白い斑点が浮き、授乳すると痛い。

③乳首が切れたりひび割れたりする。

 

おっぱいのトラブルの原因とホームケア

①おっぱい全体が張ってかたくなり、赤くなったり痛んだり熱をもったりする場合

 

≪原因≫

赤ちゃんが飲む量よりも母乳の分泌量が多かったり、飲むタイミングが合わなかったりすることで、おっぱい内に母乳がたまって出なくなる「うつ乳(うつにゅう)」によって起こります。

≪ホームケア≫

赤ちゃんにしっかり母乳を飲んでもらうことがいちばんです。

授乳クッションなどを使って抱き方を工夫し、いろいろな角度から飲んでもらうと飲み残しが減ります。

乳輪部(にゅうりんぶ)まで張っているときは、授乳前に乳輪部を軽くもんでやわらかくすると赤ちゃんが飲みやすくなります。

授乳しても張りや痛みが軽減されない場合は、おっぱい全体を手のひらで包んで圧迫し、余分な母乳を排出させます。乳輪を刺激して搾乳しないようにしましょう。

搾乳は多くの場合、乳腺を傷つけたり、母乳の過剰分泌を招いたりするので注意が必要です。

濡らしたタオルなどで軽く冷やしてみるのもよいでしょう。

 

 

②おっぱいの一部分がかたくなり、赤くなったり痛んだり熱をもったりする。乳頭の先に白い斑点が浮き、授乳すると痛い場合

 

≪原因≫

乳腺の一部に母乳が詰まることが原因です。

乳栓(にゅうせん=母乳が固まったもの)や白斑(はくはん=乳頭にできる炎症)によって乳管(にゅうかん)が詰まったり、母乳の出口となる乳口(にゅうこう)が十分に開いていなかったりすることで起こります。

≪ホームケア≫

先に、かたくなっているおっぱいから授乳し、いろいろな角度から吸わせます。

体調のよくないときや疲れがたまっているときに乳腺炎になることが多いので、授乳だけは続け、それ以外のときには横になるなどして身体をしっかり休めることも大切です。

授乳中にかたくなっている部分に指を当て、乳頭(にゅうとう)に向かって軽く圧迫すると、母乳の流れがよくなります。

 

 

③乳首が切れたりひび割れたりした場合

 

≪原因≫

乳頭や乳輪部は皮膚が薄いため、赤ちゃんの吸い方が浅いと赤ちゃんの口の中と乳頭がこすれて切れたり傷になったりします。

また、赤ちゃんの歯が生え始める頃にかまれて傷ができることもあります。

≪ホームケア≫

赤ちゃんは、吸い始めの方が強い力で乳首を吸うので、傷がないおっぱいから先に飲ませます。

痛いときは、傷がない方のおっぱいを長めに飲ませて構いません。

赤ちゃんの口に乳輪が入るくらい深くしっかり含ませることが大切ですが、この吸着のポジションの修正は、赤ちゃんの抱っこの仕方や顔の角度など、なかなか自分では判断できないので、おっぱい外来などで実際に見てもらって調整するのが望ましいです。

痛みが強すぎるときは母乳を搾乳し哺乳瓶で与えてもよいですが、赤ちゃんによっては乳頭混乱の原因になることもあります。

また、乳頭が乾燥していると傷がひどくなりやすいので、授乳後は専用のクリームでケアすることもよいでしょう。

 

ホームケアでおっぱいの症状が改善しないときは?

軽いおっぱいの張りや痛みは、ホームケアによって落ち着かせることができます。

しかし、1日たっても症状が改善しない場合や、おっぱいが赤く腫(は)れて痛む・熱が出る・寒気がするなどの症状が出る場合は、乳腺炎(にゅうせんえん)の可能性があります。

 

乳腺炎が疑われたら、早めに母乳外来のある産婦人科や助産院へ連絡を取りましょう。

 

授乳が続けられるかどうか心配するお母さんもいるようですが、乳腺炎になっても授乳はできますし、頻繁に授乳した方が回復も早くなります。

乳腺炎によっては、抗菌薬(こうきんやく)や消炎剤(しょうえんざい)などで治療しますが、その場合も、医師の指示に従って授乳を続けることが可能です。

 

また、乳首が切れたりひび割れたりした場合も、痛みがひどいと授乳がつらくなってしまいます。ホームケアで治りが悪い場合は、一度、授乳姿勢や吸着を見てもらうのがよいでしょう。

 

おっぱいのトラブルは、母乳の分泌や乳腺の状態、赤ちゃんの飲み方などにより、繰り返し起きる可能性があります。

トラブルを予防するためには、普段から飲み残した母乳が乳管にたまらないよう頻繁に授乳をしたり、授乳の姿勢を変えて飲ませたりすることを心掛けましょう。

《 監修 》

  • 井畑 穰(いはた ゆたか) 産婦人科医

    よしかた産婦人科診療部長。日本産婦人科学会専門医、婦人科腫瘍専門医。東北大学卒業。横浜市立大学附属病院、神奈川県立がんセンター、横浜市立大学附属総合周産期母子医療センター、横浜労災病院などを経て現職。常に丁寧で真摯な診察を目指している。

    HP https://www.yoshikata.or.jp/ よしかた産婦人科

     

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