母乳育児 : 産褥期 の睡眠について:どうして産後すぐは寝不足になる?【睡眠インストラクター監修】

2022.05.23

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産褥期の母乳育児と睡眠の関係【監修:橋爪 あき 睡眠改善インストラクター】

赤ちゃんが生まれた時、あなたはどんな気持ちだったでしょうか。
我が子に愛おしさを感じ、出産を終えた安堵感もあったことでしょう。
反面、本当に体が元のように元気になるのか、ちゃんと赤ちゃんを育てることができるだろうかという不安もわき上がったのではないでしょうか。
 
こちらの記事では、そんな産後すぐ(産褥期)の睡眠についてご紹介いたします。

妊娠期以上に大変!産褥期の睡眠について知ろう

「産褥期」とは、出産後6~8週間ぐらいのことで、体が以前の状態に戻っていく時期です1)
しかし、妊娠中に変化した体はすぐに戻るものではなく、体調が万全でないうちから新生児の育児が始まるため、なかなかゆっくり休養する時間はとれません。
特に睡眠に関しては、妊娠期以上に不調になる方もいます。
 
まず、知っておきたいのは、睡眠は単なる休息ではなく、眠っている間に体や脳の疲労をとり、細胞を修復し、免疫作用を強化し、また心のケアも行うという重要な役割を担っているということです。

健康な体を取り戻すために、産褥期の睡眠についての知識を得て、睡眠不調、睡眠不足への対処法を学ぶことが非常に大切になってきます。

産褥期に睡眠不足になるのは何故?

母親が睡眠不足になる原因はいくつかあります。

まず、あげられるのは、夜間授乳です。

〇産褥期は妊娠期に比べ、生理的には深く眠れるようになりますが新生児のお世話(夜間授乳やおむつ替え)によって睡眠中の中途覚醒が増えます2)
〇新生児は3時間前後で授乳を行うため、小刻みな睡眠時間になり熟睡ができず3)、睡眠と覚醒リズムが崩れ、疲労が溜まりやすいです。
また、精神的にも、時間通りに授乳しなくてはという思い(または責任感)と眠気との戦いによる焦燥感でストレスを溜めやすくなります。

赤ちゃん自身が寝てくれない場合や、赤ちゃんのぐずり・泣き声で目覚めることもあります。
生後0~2カ月の赤ちゃんは、まだ昼夜の生体リズムがかたまっておらず、朝と夜の区別がついていません。
夜だから長く寝てくれるということはなく、時々目を覚ましては、ぐずったり、泣いたりします。

 
 

ホルモンバランスの変化も影響が?

産後は妊娠中に増加していた女性ホルモンのエストロゲン、プロゲステロンの分泌が急激に減少するため、体調不良を助長します。
ホルモンバランスの乱れにより肌荒れ、抜け毛、むくみ、冷え、虫歯や歯周病の悪化などが見られ、そのうち元気になると思っていても、出産後の自分の体を見ると落ち込んでしまう人もいるかもしれません。
自律神経も乱れるので、精神的にも不安定になり、うつ状態になる人もいます(マタニティブルー)3)
うつ状態になると不眠が起こり、睡眠がとれないとますます睡眠がとれないという悪循環に陥ります。

産後のうつ病については
📖こちらの記事を確認ください。

 

眠れないこと自体に焦燥感や不安感をもつこともあります3)
上記で述べたように睡眠の役割として心のケアがあげられますから、睡眠不足になれば、ますます焦りや情緒不安がこうじ悪循環に陥ってしまいます。
〇また、赤ちゃんのことが気になって仕方がなく何度も覗き込んで様子を確認することで、寝不足になる人も多いようです2)

赤ちゃんは成長につれてだんだんと睡眠覚醒リズムが確立してきます。

上記のような様々な原因により睡眠不足が続くと昼間の眠気や倦怠感、集中力の低下、疲労の蓄積、育児の自信のなさ、母親としての不適格感、赤ちゃんへの否定的な感情感などが芽生え育児不安などにつながることがあります5,6)
ずっとこのまま眠れないのだろうかという不安があるかもしれませんが、知っておいてほしいのは、赤ちゃんは成長につれてだんだんと睡眠覚醒リズムが確立していくため、それに伴って母親の夜間睡眠の中途覚醒も減少していき、睡眠状況が改善していくということです6)
しかし、しばらくは赤ちゃんの睡眠覚醒リズムに合わせる必要があるため、生活リズムを工夫し睡眠不足を軽減することが重要です。
この生活リズムの工夫は、母親一人の努力ではできません。
パートナーや身近な人に状況を理解してもらい協力しあったり、地域の産後のサポート制度などを利用したりことが必要です。対策編で詳しく学んでみましょう。

▶後編は【📖こちらの記事】へ

 

『参考資料』
1) J UOEH(産業医科大学雑誌):授乳が与える褥婦の睡眠への影響:Vol.40, No.2, p191‐199, 2018

2)日本看護科学会誌:妊婦及び褥婦の終夜睡眠:J.Jpn.Acad.Nurs.Sci.,Vol.10, No.2, p8‐17, 1990
3)バイオメカニズム学会誌:女性の睡眠とホルモン:Vol.29, No.4, p205‐209, 2005
4)日本公衛誌:産後1か月の褥婦における睡眠と主観的精神健康感との関連:Vol.65, No.11, p646‐654, 2018
5)心身健康科学:生活習慣病と睡眠障害:4巻2号、p69‐76, 2008
6)日本助産学会:妊娠末期から産後4カ月の母親の睡眠覚醒リズムなどの変化:Vol.22, No2,p189-197,2008

《 監修 》

  • 橋爪 あき(はしづめ あき) 睡眠改善インストラクター

    慶應義塾大学卒業。
    一般社団法人日本眠育普及協会代表、睡眠改善インストラクター(日本睡眠改善協議会認定)、
    日本睡眠教育機構上級指導士、日本睡眠学会会員、NPO法人SASネットワーク理事。
    睡眠知識の広報活動、講演、執筆、メディア・企業の企画協力などを行う。

    HP https://min-iku.com/

     

     

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