2022.01.17
1. 溶連菌感染症とはこんな病気
2. 溶連菌感染症の原因
3. 溶連菌感染症の症状
4. 溶連菌感染症の検査でわかること
5. 溶連菌感染症の治療法と薬
6. 溶連菌感染症のホームケアと予防
溶連菌(ようれんきん)は、正式には溶血性連鎖球菌(ようけつせいれんさきゅうきん)という細菌です。
溶連菌はα(アルファ)溶血性、β(ベータ)溶血性、γ(ガンマ)溶血性の3つに分類されます。
小児の病気と関係が深いのは、β溶血性のβ溶連菌で、さらにA群、B群、C群、G群など20種類に分類されています。
これらのうち、主に問題となるのはA群とB群で、この2つの群のうち【主にA群β溶連菌の感染によって引き起こされる病気】を、一般的に溶連菌感染症と呼んでいます(表1)1,2,3)。
溶連菌感染症では、菌の成分や毒素・かかった人の状態・感染経路などにより、いろいろな症状が起こります。
主な症状には、急性咽頭扁桃炎(きゅうせいいんとうへんとうえん)、猩紅熱(しょうこうねつ)、皮膚の感染症、溶連菌に感染して2~3週間してから発症する続発症(ぞくはつしょう)があります2)。
溶連菌感染症には0歳児から成人までかかりますが、小児は、2~10歳の発症が多く、特に4~6歳の患者さんが多くみられます1,4)。
溶連菌感染症は、冬と春から初夏にかけての2つの時期に流行のピークがくることが多いのですが、1年を通して感染がみられます5)。
B群β溶連菌の感染によって、新生児の敗血症、髄膜炎、肺炎などの重症の感染症がみられることがあります6)。
溶連菌感染症の原因は、溶血性連鎖球菌のうち、【A群β溶連菌】の感染によるものです。
A群β溶連菌は、学名がストレプトコッカス・ピオゲネスという細菌で、化膿性レンサ球菌とも呼ばれます2)。
球の形の菌が数珠のように並んで連鎖状に見えることから、連鎖球菌と名付けられました(図1)。
感染は、感染した人がせきやくしゃみ、会話をした際に菌が含まれたしぶきが口から飛んで周囲の人が吸い込むことによる飛沫感染(ひまつかんせん)、菌の付着した手で自分の口や鼻に触れることによる接触感染、食品を介することによる経口感染の3つの経路によります5)。
2~5日の潜伏期間の後に5)、高熱とのどの痛みで発症し、頭痛、腹痛や嘔吐がみられることもあります。
のどは真っ赤になり、扁桃も大きく腫れて黄白色の斑点がみられるようになります。
舌の表面がイチゴのように赤いブツブツができて「苺舌」という症状もみられます。
3歳以下の小児では、以上のような溶連菌感染症に特有の症状はあまりみられないため、通常のかぜとの区別が難しいです2)。
急性咽頭扁桃炎に引き続いて起こります。
強いのどの痛み、頭痛、吐き気がし、体や手足に赤い発疹が隙間なく現れ、日焼けのようにみえることもあります。
顔は、額と頬が紅潮するので口の周りだけ白っぽくみえる口囲蒼白(こういそうはく)と呼ばれる状態になることもあります。
苺舌もみられます。
1週間ほどで皮膚がバラバラとむける落屑(らくせつ)がみられるようになり、2~3週間で全身の皮膚がむけて治っていきます2)。
膿痂疹(のうかしん)と丹毒(たんどく)がみられます。
湿疹やひっかき傷などの小さな傷に菌が付着・侵入して感染します7)。
膿痂疹では小さい膿疱(うみの溜まった発疹)ができ、「とびひ」にもなります。
丹毒では、顔や手足の比較的広い範囲が赤くはれ、熱も出ます2)。
ときに陰部や肛門周囲に皮膚炎をきたすことがあり、境界明瞭な湿疹が特徴です。
急性糸球体腎炎とリウマチ熱があり、溶連菌の感染から2~3週間で発症します。
急性糸球体腎炎では血尿、尿量の減少、むくみなどがみられることがあります。
リウマチ熱では、発熱、関節の痛み心臓の病気などがみられることがあります2)。
いずれの症状も重症となるので、溶連菌の感染が分かったらしっかり治療して、続発症を予防することが大切です。
以上のような症状のほか、主に成人で死亡率の高い劇症型溶血性レンサ球菌感染症が引き起こされることがあります。
小児では、水痘(みずぼうそう)にかかった後には、劇症型溶血性レンサ球菌感染症になりやすいことが分かっています2)。
診断は、発熱などの症状とのどや扁桃の診察でつくことが多いのですが、溶連菌の抗原の有無を調べる迅速抗原検査(じんそくこうげんけんさ)でも診断できます。(健康保険適用)
結果は10分ほどで出ます。
また、咽頭ぬぐい液を培養して、原因が溶連菌かそれ以外の細菌によるものかを調べる検査も行われます2,5)。
治療は、溶連菌に効果のある抗生物質(抗菌薬)によって行われます。
治療の目的は、溶連菌そのものによる病気の治療と、続発症(急性糸球体腎炎、リウマチ熱)の予防の2つです2)。
抗生物質は、決められた量と期間を守って飲み続けることが大切です。
💡症状がおさまったからと保護者の判断で飲むのを止めると、症状がぶり返したり続発症を招いたりする恐れがあります。
また、発疹がある場合、抗生物質を飲むとかゆみが強くなることがあります。
これは溶連菌の毒素が一時的に体内に広がるために起こります。
このかゆみを薬疹と間違えて、飲むのを止めてしまうことがあります。
💡薬疹が心配な場合には、主治医の先生にご相談ください1)。
予防では、溶連菌は飛沫感染、接触感染や経口感染によって感染するので、マスクの着用や手洗いの励行で予防できます。
家庭での感染を防ぐため、タオルの共用を避ける、感染している人との接触をなるべく避ける、子どもを看病する時マスクを着用するなども心がけるとよいでしょう5)。
ホームケアでは、以下の対応を心がけます2,8)。
(1) ほかの家族に感染しないよう注意する
(2) 続発症を予防するため、体のむくみや関節の痛み、尿の量や血尿の有無に注意する
(3) 口の中を痛がる場合には、熱いもの、すっぱいもの、塩からいもの、かたいものなどを避けて、冷たくてのど越しのよいものを食べさせる
また、以下のような様子がみられたら、もう一度診察を受けましょう1,8)。
(1) 2日以上たっても熱が下がらない
(2) のどの痛みが強く、水分をあまり取らず、ぐったりする
(3) 感染後1~4週間後に、元気がない、尿が少ない、顔(目の周り)がむくんでいる、血尿がある
(4) 筋肉痛がある
抗生物質を飲んでから24時間が過ぎると、周囲の人に感染する危険が少なくなります。
熱がなく元気な場合は、登園・登校できます。5,8)
ただし、集団感染を防ぐために園でルールが決められている場合もあります。登園・登校の時期については、園のルールも確認してみましょう。
《 監修 》
松井 潔(まつい きよし) 総合診療科医
神奈川県立こども医療センター総合診療科部長。愛媛大学卒業。
神奈川県立こども医療センタージュニアレジデント、国立精神・神経センター小児神経科レジデント、神川県立こども医療センター周産期医療部・新生児科等を経て2005年より現職。
小児科専門医、小児神経専門医。
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