2021.12.07
髄膜炎は、脳や脊髄を包んでいる髄膜に(図1)細菌の感染などの何らかの原因で炎症が起こる病気です1)。
髄膜炎の炎症が脳にまで広がり髄膜脳炎になると、意識障害やけいれんがみられることがあります2)。
髄膜炎は、細菌やウイルスの感染、薬剤、膠原病など様々な原因で起こります1)。
細菌の感染によって起こる髄膜炎は「細菌性髄膜炎(化膿性髄膜炎)」といい急速に悪化しやすいため3)、小児にとって気を付けなければならない重要な感染症となっています。
細菌性髄膜炎にかかりやすい年齢は、5歳未満(0歳および1~4歳)3)で、特に決まった流行時期はありません3)。
ウイルスの感染による髄膜炎は、「ウイルス性髄膜炎(無菌性髄膜炎)」といいます。
細菌性髄膜炎に比べ発病する小児は多いのですが、重症化することは少なく、通常は数日間の安静や対症療法でよくなります1)。
細菌性髄膜炎の原因になる細菌は、年齢によって異なり、生後3カ月未満ではB群溶連菌(B群溶血性連鎖球菌)や大腸菌、6カ月以降では肺炎球菌やインフルエンザ菌b型(Hib、ヒブ)が原因になることが多くなります(図2)。
また、水頭症の治療をした小児では、表皮ブドウ球菌と黄色ブドウ球菌が原因となります。
頻度は少ないのですが、リステリア菌や髄膜炎菌にも注意が必要です1)。
なお、少しややこしいのですが、細菌性髄膜炎の原因になるインフルエンザ菌は細菌であり、インフルエンザの原因となるインフルエンザウイルスとは全く別の病原体です。
細菌性髄膜炎の代表的な症状は、頭痛、発熱、首の硬直です。
時間単位で急速に悪化することがあります。
炎症が脳にまで広がると、意識がぼんやりしていつもと様子が違ったり、けいれんが起こったりすることがあります(髄膜脳炎)2)。
悪化して”髄膜脳炎”になると後遺症が残るだけでなく命にかかわることもあるため、できるだけ早い診断と一刻も早い治療開始が重要です1,2)。
細菌性髄膜炎の後遺症には、知的障害、てんかん、水頭症などがあり4)、脳障害による麻痺が残ることもあります。
診察では、首の硬直、意識の状態、血圧、脈拍、呼吸の状態、脳神経の障害の有無、手足の感覚の異常、などが調べられます2)。
また、髄膜炎に罹って(かかって)間もないころには、症状からは細菌性髄膜炎とウイルス性髄膜炎の区別がつきにくいため、検査で細菌が原因かウイルスが原因かを確かめることが重要です。
そこで、腰椎穿刺(ようついせんし)といって、背中に細い針を刺して採取した髄液(脳脊髄液)の検査を行います。
髄液検査では、ウイルス抗原検査によって原因ウイルスの種類、髄液細胞培養によって原因になっている細菌の種類を特定します1)。
細菌性髄膜炎では、髄液中の細胞数や糖の濃度が低下していることも診断の手がかりになります5)。
このほか、MRIやCTによる脳の検査、脳波検査が行われることもあります2)。
細菌性髄膜炎は、ワクチンの普及により肺炎球菌とインフルエンザ菌b型(Hib、ヒブ)が原因の発症数は激減しています。
一方、B群溶連菌、リステリア菌、大腸菌が原因となる場合は、現在も予防ができません。
細菌性髄膜炎の可能性があると判断された場合は、急速に症状が悪化するため、検査で細菌が原因であると確定するのを待たずにすぐに治療を開始します。
治療には、原因となる細菌に有効な抗生物質(抗菌薬)のほかに、脳障害を防ぐためステロイド薬が使用されることもあります2)。
細菌性髄膜炎では、肺炎球菌ワクチンとHib(ヒブ)ワクチンの接種が予防につながるため、できるだけ早めの接種が望まれます1)。
ウイルス性髄膜炎の病原体で最も多いエンテロウイルスは、感染した人の分泌物(唾液、痰、鼻の粘液)の中に出てきます。
この分泌物が付着しているものをなめたり、触れた手をなめたりすると感染することがあります。
また、ウイルス性髄膜炎の病原体であるエンテロウイルスは便の中にも排出されるので、おむつを替えるときに便が手につくことで感染することもあります6)。
そのため、手洗いや手指の消毒が大切です。
また、ムンプスウイルスの感染を、おたふくかぜワクチンで防ぐことも予防につながります7)。
乳児では普通のかぜと区別がつきにくいこともありますが、以下の症状がみられる場合は1,2)、できるだけ早く診察を受けましょう。
(1) 首を動かすと痛がる
(2) 首が硬くなって曲がらない
(3) 膝を伸ばすと膝の裏を痛がる
(4) 大泉門が盛り上がる
(5) 意識がぼんやりしていつもと様子が違う
(6) けいれんが起きる
《 監修 》
松井 潔(まつい きよし) 総合診療科医
神奈川県立こども医療センター総合診療科部長。愛媛大学卒業。
神奈川県立こども医療センタージュニアレジデント、国立精神・神経センター小児神経科レジデント、神川県立こども医療センター周産期医療部・新生児科等を経て2005年より現職。小児科専門医、小児神経専門医。
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