つわりと妊娠悪阻、重度妊娠悪阻の違いは?治療方法はあるの?【医師監修】

2023.11.17

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【監修】井畑 穰(いはた ゆたか) 産婦人科医

妊娠初期に悪心や嘔吐が起きることはよく知られており、これらの症状を総称して「つわり」といいます。

 
つわりは一般的な用語で医学的な病名としては「妊娠悪阻」と呼びますが基本的には同じものです(くしゃみや鼻水の症状は「風邪」、重症化して病院に行ったら「感冒」と病名がつくのと同じです/参考📖風邪と感冒について)。
ただ、医学的に病名がつくくらい症状が悪化したつわりを「妊娠悪阻」と呼ぶので、「妊娠悪阻」の方が重症と考えてもかまいません。

つわりの原因は?

つわりの原因は諸説があり、いまだに解明されていません。

 
比較的シンプルなものとして、hCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)に対する体の反応だという考えがあります。
妊娠したかどうかは尿を検査しますが、そのときに調べる物質がhCGです。
hCGは通常なら分泌されていないホルモンですが、妊娠成立にほぼ一致して分泌されるようになります。
その新たなホルモンhCGに対する体の反応がつわりだという考え方です。

人によってつわりの軽さ重さが違うのも、hCGに対して(例えは悪いですがアルコールに強いか弱いかのように)反応の強弱は個人差があると考えると分かりやすいです。
hCGは妊娠20週くらいで最高値の10分の1くらいまで減少し、つわりが落ち着いてくるタイミングとよく一致します。

 
妊娠の継続ができない流産のとき、つわりが急になくなって気が付いたというケースもよくありますが、hCGの急激な減少でつわりがなくなったのだと考えるとこれもつじつまが合います。
しかし、hCGだけでは説明がつかないことも多く、つわりの原因としては他にもたくさんの因子があると考えられています。

 
重症の妊娠悪阻では食事や水分の摂取ができないために、全身にさまざまな症状が現れます。
妊婦さんや赤ちゃんの命に関わるケースもあり、「つわりは妊娠につきものだから仕方がない」と考えてひたすら我慢した結果、重症化に対処できなくなっては元も子もありません。

つわりと妊娠悪阻、重症妊娠悪阻

つわりは妊婦さんの50~80%に起こるとされ、妊娠5週目くらいから吐き気や嘔吐などの症状が現れます。

 
はじめにも述べた通り、つわりが起こる仕組みは明確には分かっていませんが、妊娠による急激なホルモンバランスの変化が原因で、妊娠16週ごろまでにはホルモンバランスが整い症状が自然に落ち着くといわれています。
しかし調子の悪さが20週以降まで長引くケースも少なくなく、単にホルモンバランスだけでは説明がつかないところです。

 
妊婦さんの0.5~2%は、つわりが悪化して重症妊娠悪阻になるといわれています。
この場合は強い吐き気や嘔吐が一日中続き食事や水分の摂取ができなくなります。
そのため体重が減り、頭痛やめまい、脱水症状などが現れます。

食事が摂れないので体の脂肪を使ってエネルギーを作るしかない状態になり、このときケトン体というものが作られます。
つまり尿中のケトン体の量を調べることで、重症妊娠悪阻の程度を知ることが可能です。
💡体重が妊娠前より5%以上減ったり、皮膚や口の中が乾燥したりするのは、妊娠悪阻のサインとされています。

 
また、さらに症状が進むと代謝異常により意識障害や肝機能障害などを引き起こすことがあります。
極めてまれですが妊婦さんの生命が危険な状態になるまで悪化が進んだ場合は、妊娠を諦めるという選択肢も考慮せざるを得なくなります。

妊娠悪阻の検査は? 

妊娠悪阻は、問診とともに尿検査や血液検査を行って診断します。

 
また、脱水に付随してDVT(深部静脈血栓症=しんぶじょうみゃくけっせんしょう)を併発している疑いがある場合は、超音波検査も行います。

 
・尿検査

妊娠悪阻が疑われたら、尿検査を行って尿中ケトン体の数値を調べます。
ケトン体は、妊娠とは関係なく、栄養不足に陥ったとき、体内で蓄えていた脂質をエネルギーとして利用する際にできる物質です。
尿中ケトン体が陽性(2+以上)の場合は体が飢餓状態になっていると診断されます。

 
・血液検査

血液検査により、電解質の状態や脱水の程度を調べます。
水分の摂取ができなくなると、体内の電解質のバランスが崩れ、めまいやだるさを引き起こしたり腎臓機能の低下を招いたりします。
脱水は血液のヘマトクリット値を調べることで推定します。

 
・DVT(深部静脈血栓症)の検査

脱水症状が進むと、DVT(深部静脈血栓症)を発症するリスクが高まります。
受診時に、ふくらはぎの腫れやむくみ、痛みなどがある場合は、超音波検査を行い血栓の有無を調べます。

妊娠悪阻の治療は?

妊娠悪阻を根本的に治すことはできないので、治療は対症療法になります。

 
・補液

脱水は電解質を含む経口補水液も有用ですが、吐き気がひどく経口で水分を摂取することができない場合は、ブドウ糖や電解質溶液の点滴を行うことで改善を期待できます。
症状が長引いて体重の減少も甚だしい場合は、高カロリーの輸液でエネルギーを補給することもあります。
症状が軽ければ外来で点滴を受けながら通院治療できますが、外来でできる治療には限界がありますので、重症妊娠悪阻の場合には入院して点滴を行います。

 
・ビタミンを補う

妊娠悪阻の治療で意識するべきなのはビタミンB1の補充です。
妊娠悪阻になると栄養状態の悪化によりビタミンB1が不足します。
さらに、治療として高カロリーの点滴を行う際にもビタミンB1が消費されるため、いっそうビタミンB1が足りなくなります。
ビタミンB1の欠乏は、ウェルニッケ脳症という合併症を引き起こすことがあり、意識障害や眼球運動障害、健忘症状、歩行のふらつきなどが生じ、まれに後遺症を残す恐れがあります。
そこで治療にあたっては、点滴に加えてビタミンB1も投与し、ウェルニッケ脳症を予防します。
また、吐き気や嘔吐の緩和にビタミンB6が効くことがあります。

 
・内服薬

妊娠中でも使用できる吐き気止めが処方されることがあります。
つわりの症状によっては、漢方薬が著効するケースもありますので、担当医師とよく相談してください。

 
・安静

つわりが悪化する原因ははっきり分かっていませんが、ストレスや不安など精神的な要因もかなり関係していると考えられています。
そこで、治療においては、まず心身の安静のために十分な休養をとることが重要になります。


母性健康管理指導事項連絡カード(母健連絡カード)を使って、仕事の内容の変更や通勤緩和などを検討してください。
事業主は、母健連絡カードの記載内容に応じ、男女雇用機会均等法第13条に基づく適切な措置を講じる義務があります。

 

妊娠悪阻の赤ちゃんへの影響は?

妊娠中に一時的に食事の量が減っても、相当の飢餓状態にならなければおなかの赤ちゃんには大きな影響はありません。

 
適切な食事や点滴などで低血糖と脱水を補正していれば心配はないでしょう。
我慢して悪化することは、赤ちゃんにとっても良いことではありません。

つわりのまとめ

つわりは自然に回復するとはいえ、重症化することもあります。

 
重症化を防ぐためには、吐き気や嘔吐が一日中続いたり、体重が急に減ったりしたら、我慢をせずに早めに受診しましょう。
また、きちんと治療する必要がある病気であることを家族に説明し、十分な安静と休養をとり治療に集中できるよう、サポートしてもらいましょう。
仕事については、母健連絡カードを使うことで、症状に応じた適切な減免を行い無理をしないようにしてください。
 
▼つわりの症状についてはこちらの記事も読んでみよう

《 監修 》

  • 井畑 穰(いはた ゆたか) 産婦人科医

    よしかた産婦人科診療部長。日本産婦人科学会専門医、婦人科腫瘍専門医。東北大学卒業。横浜市立大学附属病院、神奈川県立がんセンター、横浜市立大学附属総合周産期母子医療センター、横浜労災病院などを経て現職。常に丁寧で真摯な診察を目指している。

    HP https://www.yoshikata.or.jp/ よしかた産婦人科

     

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