2022.02.25
糖尿病は、尿に糖が出る病気、おいしいものを大量に食べていたらなる病気、血糖値が高くなる病気、などといろいろいわれていますが、本質は「糖を上手に使えなくなる病気」です。
食事で摂取した糖分は、インスリンというホルモンの働きで体に取り込まれます。
ところが、何らかの理由でその取り込みがうまくできないと、余った糖が血液に残って高血糖になり、尿にも糖が出現します。
糖尿病が極端に悪化すると、どんなに食べても糖を吸収できず、体は飢餓になりますので疲れやすく、むしろ痩せてしまい、インスリンの注射が必要になります。
中高年で肥満の人が美食を続けているとなる病気というイメージがある方もいらっしゃると思いますが、実は妊娠中に発症することがあり、これを「妊娠糖尿病」といいます。
日本産婦人科学会によると、妊娠中のお母さんのうち、7~9%が妊娠糖尿病と診断されています(2022年1月現在)。
もともと妊娠中に誰でもかかる可能性がある病気ですから、今まで高血糖とは無縁だった人でも十分に注意が必要です。
今回は、妊娠糖尿病について詳しく解説します。
発症を予防するための生活習慣もご紹介しますので、ぜひ実践してください。
糖尿病合併妊娠では、すでに糖尿病の診断がされていますので、かかりつけの内科の指示に従って、多くの場合、インスリンを開始、もしくは増量して、厳格に正常血糖を維持することを目指します。
きちんとコントロールできれば、母児への影響はほとんどありません。
むしろ問題なのは、妊娠中の検査で糖尿病が初めて診断された場合で、これまで糖尿病だったのに見逃されていた場合と、妊娠中のホルモンへの反応性の低下などから糖尿病になってしまう場合に分けられます。
妊娠糖尿病になると、お母さんの高血糖が胎盤を通じて赤ちゃんにも伝わります。高血糖が体に影響を与えることで、お母さんにも赤ちゃんにも、さまざまな合併症が引き起こされる恐れがあります。
・感染症になりやすい(膀胱炎や腎盂腎炎)
・流早産になりやすい
・羊水(ようすい)量の異常
・網膜症(もうまくしょう)や腎症(じんしょう)の悪化
など
・巨大児📖
・肩甲難産(けんこうなんざん=出産時、頭が出ても肩が引っかかって出られなくなる)
・新生児低血糖
・流早産
・形態異常
・先天奇形
・発育遅延
・胎児死亡
など
親やきょうだいに糖尿病の人がいる場合は、かかりやすい傾向があります。
普段から血糖値が高めだったり、糖代謝異常と診断されたことがあったりする人はかかりやすいとされています。
年齢因子は糖尿病の大きなリスクファクターです。
肥満によりインスリンの作用が低下し、糖尿病にかかりやすくなります。
糖質が多い食事は血糖値を上昇させる原因になります。
ストレスが多くなると、ホルモンの作用により、血糖値が上がりやすくなります。
妊娠糖尿病は、多くの場合、自覚症状がありません。
そのため、妊婦健診で早期に発見し、速やかに治療を開始することが重要です。
妊婦健診では、初期と中期に血糖の検査を行います。
また、毎回の妊婦健診で尿検査をして、尿糖が出ていないかを調べます。
これらのスクリーニング検査で糖尿病の疑いがある場合、糖負荷試験で診断します。
糖尿病という名前から尿の異常を想像しますが、妊娠中は特に異常がなくても尿糖陽性になることがあり、逆に尿糖が出なくても糖尿病ということも多いため、尿糖ではなく、血糖で病状を判断します。
糖負荷試験では、空腹時血糖値92mg/dL以上、負荷後1時間値180mg/dL以上、2時間値153mg/dL以上を基準とし、3回の測定の「いずれか」が基準を上回った場合、妊娠糖尿病と診断します。
治療は食事療法と運動療法が基本です。
妊娠糖尿病に対しては、食事療法と運動療法を行います。
血糖値が、食前100mg/dL未満、食後2時間後120mg/dL未満になることなどが目安の一つですが、医師の指示に従って、1日の摂取エネルギーを制限します。
コントロールが不良の場合、内服薬は使用せず、インスリンを用います。
運動もとても大切で、積極的にカロリー消費をすることが望ましいです。
妊娠糖尿病は自覚症状がないので、早期発見・早期治療のためには血糖値の検査が鍵になります。
妊婦健診を定期的にきちんと受け、妊娠糖尿病のリスクを把握しておきましょう。
リスクがあることが分かっても早めに治療を開始すれば、お母さんや赤ちゃんへの影響を少なくすることができます。
妊娠中の急激な体重増加は、妊娠糖尿病を引き起こす原因になります。
糖分が多い食事は控え、バランスの良い食生活を心掛けましょう。
ただし、体重を気にしてむやみに食事制限をすることは、赤ちゃんのためにも好ましくありません。
体重の管理が難しい場合は、妊婦健診のときに食事についても医師に相談しましょう。
適度な運動は血糖値をコントロールする効果が期待できます。
ウォーキングやマタニティヨガ、マタニティスイミングなどを1週間に3~4回、1日20~30分くらい行うといいでしょう。
妊娠中は状況によって運動ができない場合もあるので、必ず医師に相談して、許可をもらってから行ってください。
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妊娠糖尿病は出産すれば血糖値が下がることが多く、そのまま糖尿病になることはまれです。
ただ、今回トラブルなく出産ができたとしても、次回の妊娠で再び妊娠糖尿病を発症する確率が高まります。
また、妊娠糖尿病になったお母さんは、将来、糖尿病やメタボリック症候群になりやすいとされています。
妊娠糖尿病を予防したり、発症しても重症化を防いだりするためには、病気について正しい知識を持ち、医師の指導に従って、生活習慣を整えることが大切です。
《 監修 》
井畑 穰(いはた ゆたか) 産婦人科医
よしかた産婦人科診療部長。日本産婦人科学会専門医、婦人科腫瘍専門医。東北大学卒業。横浜市立大学附属病院、神奈川県立がんセンター、横浜市立大学附属総合周産期母子医療センター、横浜労災病院などを経て現職。常に丁寧で真摯な診察を目指している。
▶HP https://www.yoshikata.or.jp/ よしかた産婦人科