『 鉄剤 』子ども(小児)の処方箋:子どもが貧血?鉄不足を補う薬【医師監修】

2022.04.08

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薬

鉄剤ってどんな薬?

鉄は、血液にのって酸素を運ぶヘモグロビンの合成に必要な栄養素です。
体の機能を維持するのに大切な成分で、急速に発育する乳児期は特に必要性が高まりますが、成長に摂取量が追いつかないことがあります。
すると、ヘモグロビンが十分に合成されず、鉄欠乏性貧血(体内の鉄分が不足して貧血になる状態)になります。

 
鉄欠乏性貧血は血液検査で軽症~中等症かを診断します。
血液検査で赤血球の大きさにばらつきがある(大小不同)、赤血球が小さい、ヘモグロビン値が低い、血清鉄(血液中に含まれる鉄の量をチェックする検査)やフェリチン検査(体内の貯蔵鉄の量を測る検査)で鉄の濃度が70未満かフェリチンが一桁の場合は鉄欠乏性貧血と診断されます。1)
 

 

病院で診断を受け、医師が必要と判断すれば、鉄剤(飲み薬)が処方されます。
薬の服用をどのくらい続けるかは、お子さんの状態によって変わりますが、貯蔵鉄が回復するまでしばらく続けます2)

鉄剤の投与期間は3カ月程度です。効果が現れると、子どもが元気になるのを実感できます。
鉄剤は便秘を起こすことがあるため、便秘の薬を処方してもらうのもよいでしょう。

鉄欠乏性貧血は小児や思春期の女児に起きやすい

鉄欠乏性貧血は年齢による特徴が見られます。2)
小児の鉄欠乏性貧血は急速な発育により鉄の需要が増大する乳児期と、思春期の女児に起きやすいです2)

これは成長に伴う鉄の必要性が高いことと、思春期の月経は出血量が多かったりすることが原因です。
上記以外の鉄欠乏性貧血はなんらかの病気(例えば消化管出血、炎症性腸疾患、サラセミアなどの血液の病気、白血病など)を疑う必要があります。
 

乳児期は、母親からもらって体内に貯めていた鉄を、体の成長のために使い切ってしまい鉄が不足しやすいのに加え、母乳で育児をしている場合は粉ミルクよりも鉄の含有量が少ないために鉄欠乏性貧血が起こることがあります3)
鉄が不足しないように離乳食で補う必要があるため、母乳育児では適切な時期に離乳を始め3)、離乳食には鉄を多く含む食材(レバー、赤身の肉・魚など)を取り入れるのがよいでしょう。
乳児期後期(生後9カ月以降)は特に鉄欠乏性貧血が起こりやすい時期です1)
すぐに症状は現れませんが、貧血の程度が高まると、わずかな刺激で泣くようになったり、注意力散漫になったり、顔色が悪くなったり、食欲がなかったりします。

 
 

また牛乳を飲み過ぎると鉄欠乏性貧血になることを知っておきましょう2,4)
牛乳に含まれる鉄量は少なく、牛乳でおなかがいっぱいになってしまって食事量が減ると、鉄の摂取量が少なくなることが理由とされます。
一方、乳児ミルクと牛乳の中間的なものとしてフォローアップミルクがあります。
フォローアップミルクは鉄分が多く含まれているので鉄欠乏性貧血を予防できます。
ただし、フォローアップミルクはあくまで離乳食が3回できているお子さんに与えるもので、ミルクや母乳の代わりにするものではありません。4)

 

鉄剤が処方される病気

鉄欠乏性貧血
など

鉄剤の種類

この記事では、子どもに使われる主な鉄剤を紹介します(2022年1月時点)。
薬を使い始めて何か気がかりなことがあれば、医師、薬剤師に相談しましょう。
 

インクレミン(溶性ピロリン酸第二鉄)

<薬の形状>
シロップ
<特徴>
鉄を補い、鉄不足で起こる貧血を改善します。
<注意>
一過性に歯や舌が着色(黒色など)したり、便が黒くなったりすることがあります4)

 

フェロミア(クエン酸第一鉄ナトリウム)

<薬の形状>
顆粒、錠
<特徴>
鉄を補い、鉄不足で起こる貧血を改善します。
<注意>
便が黒くなることがありますが、心配はありません。
ただし、腹痛をともなうような場合には医師または薬剤師に相談しましょう4)
歯が茶褐色になることがあり、その場合には重曹などで歯磨きをするとよいでしょう4)

『参考資料』

1)日本鉄バイオサイエンス学会:鉄剤の適正使用による貧血治療指針 改訂[第2版].株式会社響文社
(2022年2月10日閲覧:https://jbis.bio/all/pdf/tetu-ketubou.pdf
2) 加藤陽子.日内会誌.99 (6):1201-1206,2010
3) 島本和恵ほか.日本食育学会誌.13(3):223-237,2019
4) 「授乳・離乳の支援ガイド」改定に関する研究会.授乳・離乳の支援ガイド.2019
5) くすりの適正使用協議会.くすりのしおり.
(2022年1月22日閲覧:https://www.rad-ar.or.jp/siori/index.html

《 監修 》

  • 松井 潔(まつい きよし) 総合診療科医

    神奈川県立こども医療センター総合診療科部長。愛媛大学卒業。

    神奈川県立こども医療センタージュニアレジデント、国立精神・神経センター小児神経科レジデント、神川県立こども医療センター周産期医療部・新生児科等を経て2005年より現職。

    小児科専門医、小児神経専門医。

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