『 甲状腺 』の病気(バセドウ病・橋本病・甲状腺腫瘍)の症状や治療法は?【医師監修】

2023.04.03

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【監修】EASE女性のクリニック:産婦人科専門医:丸山 真理子先生

甲状腺は、喉仏の下にあるチョウの形をした小さな臓器で甲状腺ホルモンを分泌しています。


甲状腺ホルモンは、普段、あまり意識することがないかもしれませんが、脈拍や血圧、体温などを上げたり、新陳代謝を促進したりする重要な働きをしています。

甲状腺の病気は女性に多く見られますが、さまざまな症状が徐々に現れるため、病気にかかっていると気付かないことも少なくありません。

 

しかし、甲状腺のトラブルを放置していると、日常生活に支障があるだけでなく、不妊の原因になったり、流産や早産を引き起こしたりすることもあります。

 

妊娠に備えて、ぜひ甲状腺の病気について知っておきましょう。

代表的な甲状腺の病気は下記の通りです。

甲状腺機能亢進症(こうじょうせんきのうこうしんしょう)

甲状腺ホルモンの分泌が増え過ぎた状態を甲状腺機能亢進症といいます。

 

代表的な病気はバセドウ病で、20~30歳代の女性に多く発症します。

バセドウ病は、自分の体を守るための免疫が自分の体の一部を攻撃してしまう自己免疫疾患の1つで、甲状腺ホルモンが過剰に作られることで交感神経や代謝が刺激され、体の興奮状態が持続します。

 

🍏主な症状

・動悸がする(脈が速い)
・食欲があるのに体重が減少する
・手足が震える
・汗が増える
・暑がりになる
・疲れやすい
・イライラして怒りっぽくなる
・上まぶたが上がって眼球が出てくる
・生理が止まる

 

🍎治療法

内科的治療としては、抗甲状腺薬を服用し甲状腺ホルモンの分泌を抑えます。
抗甲状腺薬の副作用が強過ぎたり完治しない場合は、アイソトープ治療と呼ばれる放射性ヨウ素のカプセルを服用する治療を行ったり、外科的に手術で甲状腺を切り取る治療を行ったりします。

 

🍏妊娠への影響

甲状腺機能亢進症が原因で妊娠しにくくなるということはありません。
ただし、バセドウ病の代表的な治療薬のメルカゾールを妊娠初期に飲むと、赤ちゃんが頭の皮膚の欠損や📖臍帯ヘルニアなどを発症するリスクが高くなるというデータがあります。
また、アイソトープ治療中は妊娠を避ける必要があります。妊娠を希望している場合は、あらかじめそのことを主治医に伝え、妊娠前から赤ちゃんに影響が少ない薬に変更してもらいましょう。
また、甲状腺機能亢進症の場合、母体が📖妊娠高血圧症候群になりやすかったり、流産・早産を起こしやすかったりするなどのリスクがあります。
そのため妊娠中は、薬の服用を続けながら定期的に検査し、甲状腺機能をコントロールする必要があります。

 

*アイソトープ治療(放射性ヨード治療)はアイソトープという一種の放射能を使う治療です。

甲状腺機能低下症(こうじょうせんきのうていかしょう)

甲状腺の機能が低下し、甲状腺ホルモンが作られにくくなる状態を甲状腺機能低下症といいます。

 

代表的なのは橋本病(はしもとびょう)で、甲状腺に慢性の炎症が起こります。
血液検査の数値では成人女性の10人に1人が素質を持っているとされる自己免疫疾患の1つで、30~40歳代で発症することが多いとされます。
ただし橋本病と診断されても、甲状腺の機能自体は正常レベルに保たれていて症状が見られないというケースが大半です。
病気が進行して甲状腺ホルモンが不足する甲状腺機能低下症になるのは4~5人に1人未満とされ、この場合はさまざまな症状が現れます。
 
🍏主な症状

・寒がりになる
・便秘
・体重増加
・顔がむくむ
・疲れやすい
・無気力になる
・物忘れがひどくなる
・生理が止まる、または乱れる

※一時的に甲状腺の炎症の度合いがひどくなり、多汗、動悸、イライラなどバセドウ病と似た症状が出ることもあります。

 
🍏治療

甲状腺の機能が正常レベルに保たれていて症状が何もない場合、治療は必要ありません。
定期的に経過観察を行って、甲状腺の機能が低下していないかを確認します。
甲状腺機能低下症になり甲状腺ホルモンの低下による症状が現れた場合は、不足している甲状腺ホルモン薬を内服して治療します。

 
🍎妊娠への影響

甲状腺機能低下症は不妊のリスクになります。
また、胎児・新生児の精神・神経の発達に影響することもよく知られています。
橋本病と診断されている場合は、妊娠を希望したら早めに医師に相談し、薬の服用により甲状腺ホルモンの数値を正常に保つことが重要です。
すでに甲状腺ホルモン薬を服用している場合は、赤ちゃんへの影響が少ない薬に変更してもらいます。
なお、妊娠すると母体に必要な甲状腺ホルモン量は妊娠前の約1.5倍になるとされています。
不足すると流産や早産、子宮内胎児発育遅延などを引き起こす原因になるので、妊娠中に甲状腺ホルモンをコントロールすることが必要です。

 

甲状腺腫瘍(こうじょうせんしゅよう)

甲状腺腫瘍は甲状腺にできるしこりの総称で、良性と悪性があります。

良性の病気で多く見られるのは、濾胞腺腫(ろほうせんしゅ)や腺腫様甲状腺腫(せんしゅようこうじょうせんしゅ)、嚢胞(のうほう)などで、甲状腺が腫れたり、そこに液体がたまったりして甲状腺にしこりができます。
良性の場合は、大きくならなければそのまま経過を観察します。悪性の腫瘍で代表的なのは乳頭がんです。
がんの形が「乳頭」のように見えることから名づけられたがんで女性に多く幅広い年代で発症します。
進行が非常に遅く、手術によって治る可能性が高いがんです。妊娠しやすさには関係しませんが、妊娠中に発見されたら、多くは出産を待って手術を行います。

甲状腺ホルモンの分泌の異常は、日常生活への影響だけでなく、不妊や、流産、早産などの原因になり、特に妊娠を希望する女性にとっては注意が必要です。
 
気になる心身の不調があったら、内分泌内科、内分泌代謝科、内分泌外科などを受診して、甲状腺の機能を調べてもらいましょう。

《 監修 》

  • 丸山 真理子(まるやま まりこ)産婦人科専門医

    EASE女性のクリニック院長。
    産婦人科専門医として子宮がん・乳がん検診のほかプレコンセプションケア、妊活、妊娠、子育てと全てのライフステージの女性診療に携わる。イーズファミリークリニック本八幡・病児・病後児保育室室長、EASE English Montessori School、日本女性財団プラットフォーム委員会委員長としても精力的に活動中。

     

    HP https://ease-clinic.jp/ EASE女性のクリニック

     
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