2022.01.31
以前は「妊娠中毒症」として知られていた病態で、妊娠した人の約20人に1人の割合で起こるといわれています。
妊娠をきっかけに発症するので、妊娠前に高血圧と無縁であっても油断はできません。
下記に述べる内容に当てはまる方や、実のご両親や親戚に高血圧の方が多い場合は確率が高まります。
重症化すると、お母さんにも赤ちゃんにも深刻な症状を引き起こす場合があるので、予防や早期発見に努めましょう。
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妊娠高血圧症候群(にんしんこうけつあつしょうこうぐん)は妊娠中に高血圧になってしまう病気です。
血圧測定で140/90を片方でも超えた場合、妊娠高血圧症候群と診断します。
ただし、測定時の緊張などで超えることもありますので、その場合は「白衣高血圧(はくいこうけつあつ)」として、妊娠高血圧症候群には含めません。
160/110を片方でも何回か超えた場合は降圧治療が必要になりますので、すぐにかかりつけの先生に相談しましょう。
妊娠高血圧腎症はさらに重症だと考えてください。
妊娠20週以降に腎機能が悪化することが多いので、一層の注意が必要です。
腎機能の悪化はタンパク尿の有無で判断しますが、タンパク尿がなくても採血などで重症と診断されることがあります。
具体的には、肝機能の悪化や血小板数の減少などから判断されます。
妊娠高血圧症候群では、お母さんと赤ちゃんの両方に、命に関わる症状が出る可能性が高まります。
まず、お母さんについては、脳卒中(のうそっちゅう)や子癇(しかん)、HELLP症候群(へるぷしょうこうぐん)などがあげられます。
赤ちゃんについては、妊娠高血圧症候群では発育の遅延が認められることがあります。
週数との差がどんどん開いていった場合は、小さくても早めにお産しなければなりません。
また、胎盤早期剥離(たいばんそうきはくり)や胎児機能不全(たいじきのうふぜん)の確率が高まりますので、原則として入院管理とし、赤ちゃんの状態を胎児心拍モニターなどで毎日確認する必要があります。
この病気は誰でも起こる可能性がありますが、次のようなケースは妊娠高血圧症候群になりやすいとされているので、より注意が必要です。
・糖尿病(とうにょうびょう)、高血圧、腎臓病(じんぞうびょう)などの持病がある
・妊娠前からの肥満
・母体の年齢が高い(40歳以上)
・血縁者に高血圧の人がいる
・多胎妊娠(たたいにんしん)
・以前に妊娠高血圧症候群になったことがある
また、これらのリスクがほとんどない人でも、妊娠中の食生活で塩分やカロリーが多いなど非常に偏っている場合や、職場や家庭の人間関係などでストレスの多い場合はリスクが高いでしょう。
完全に予防することはできませんが、次のようなことを心がけ、高血圧になりにくい生活を送る、日常を見直すことで、リスクを減らすことができます。
最も重要なのは妊婦健診をきちんと受けることです。
妊娠高血圧症候群は、ほとんど自覚症状がないことも少なくありません。
妊婦健診のないときでも、ハイリスクの方は自宅で血圧を測定するなどが望ましいでしょう。
その上で、140/90を超える血圧が続くようなら、定期受診を待たず、すぐにかかりつけの産婦人科を受診してください。
《 監修 》
井畑 穰(いはた ゆたか) 産婦人科医
よしかた産婦人科診療部長。日本産婦人科学会専門医、婦人科腫瘍専門医。東北大学卒業。横浜市立大学附属病院、神奈川県立がんセンター、横浜市立大学附属総合周産期母子医療センター、横浜労災病院などを経て現職。常に丁寧で真摯な診察を目指している。
▶HP https://www.yoshikata.or.jp/ よしかた産婦人科