子どもの 先天性心疾患 『心室中隔欠損症、心房中隔欠損症』をわかりやすく解説【医師監修】

2023.08.08

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【監修】神奈川県立こども医療センター:総合診療科 松井 潔先生

目次

1-1.  心臓の働きについて

1-2.  代表的な先天性心疾患について

1-3.  心室中隔欠損症、心房中隔欠損症について

2-1.  先天性心疾患の原因は?

2-2.  心室中隔欠損症の原因と症状

2-3.  心房中隔欠損症の原因と症状

3.   心室中隔欠損症、心房中隔欠損症の検査でわかること

4-1.  心室中隔欠損症の治療法

4-2.  心房中隔欠損症の治療法

5.   心室中隔欠損症、心房中隔欠損症のホームケア

1-1.  心臓の働きについて

正常な心臓の働きは、酸素が豊富な血液を全身に送ることです。

 

全身から心臓へ戻ってくる酸素の少ない血液が、大静脈→右心房→右心室→肺動脈と流れ、肺で酸素の多い血液になり、肺静脈→左心房→左心室→大動脈へと流れ、全身に血液が送り出されます(図1)1)

 

図1 正常な心臓の様子と血液の流れ

1-2.  代表的な先天性心疾患について

先天性心疾患(先天性の心臓病)は、何らかの原因で生まれつきみられる心臓の病気です。

 

心臓内の部屋(心室や心房)を区切る壁(中隔)に穴(欠損)が開いているもの、血管に異常があるもの、心臓の弁に異常があるものなどがあります(表1)2)

 

先天性心疾患には、チアノーゼ型心疾患(酸素の少ない血液が全身に流れてしまう)と非チアノーゼ型心疾患にわけられます。1)

*チアノーゼとは?=低酸素状態のため唇や指先の色が赤紫色になる症状2)

 

表1 代表的な先天性心疾患2)

病名 どんな病気
・心室中隔欠損症
(しんしつちゅうかくけっそんしょう)
左と右の心室の間に穴が開いている病気。
心不全や肺うっ血がみられる。
・心房中隔欠損症
(しんぼうちゅうかくけっそんしょう)
左と右の心房の間に穴が開いている病気。症状に乏しい。疲れやすい、運動後の呼吸困難等。
2・3歳以降に症状が出る為、成人期まで診断されないことも多い。
成人になって不整脈、肺高血圧、心臓弁膜症。
・肺動脈弁狭窄
(はいどうみゃくべんきょうさく)
右心室から肺に送られる血液が逆流するのを防いでいる肺動脈弁の開きが悪く、右心室が強い圧力をかけないと肺に十分血液を送れない。
・動脈管開存
(どうみゃくかんかいぞん)
動脈管は、大動脈と肺動脈の間を結ぶバイパス役の血管で、胎児の間は、血液の通り道として大変重要。
動脈管は、生後間もなく不要になり自然に閉じるが、閉じない場合は、この管を通してたくさんの血液が心臓と肺の間を空回りする。
・ファロー四徴症
(ふぁろーしちょうしょう)
①右心室の出口から肺動脈にかけて細くなっている(肺動脈狭窄:はいどうみゃくきょうさく)、②心室中隔欠損がある、③大動脈が心室の壁に馬乗りのような状態になっている(大動脈騎乗:だいどうみゃくきじょう)の3症状が同時に起きている病気。
その結果、右心室に負担がかかって心室の壁が厚くなる(右室肥大)。

 

心室中隔欠損、心房中隔欠損、肺動脈弁狭窄、動脈管開存症は非チアノーゼ型心疾患、ファロー四徴性はチアノーゼ型心疾患に分類されます。

1-3.  心室中隔欠損症、心房中隔欠損症について

このうち、生まれつき心臓内の中隔に穴が開いている病気が、心室中隔欠損症(心室中隔に穴が開いている:図2)心房中隔欠損症(心房中隔に穴が開いている:図3)です。

 

先天性心疾患は、出生1000人に対し7~9人(100人に1人)の割合で発生しますが、小児期にみられる先天性心疾患の約50%は心室中隔欠損症で最も多くみられます1)

 
一方、心房中隔欠損症は10%で、診断時期は様々です。
心房中隔欠損症が成人期に診断された場合、肺高血圧症のため治療ができないことがあり、生命予後が悪くなります。
従って幼児期に診断しておきたい疾患です。

 

図2心室中隔欠損症の人の心臓の状態

 

図3心房中隔欠損症の人の心臓の状態

2-1.  先天性心疾患の原因は?

先天性心疾患の原因は分かっていないことが多く、あったとしても1つではなく、環境と遺伝の両方が関係していると考えられています。

 

染色体の異常も原因になりますが、大部分は遺伝しません。
また、心臓がほぼ完成する妊娠10週ごろまでの間に、ウイルス、薬剤、放射線などの影響で発症することもあります1)

2-2.  心室中隔欠損症の原因と症状

●心室中隔欠損症(しんしつちゅうかくけっそんしょう)
年齢:出生前~成人
症状:心不全、肺うっ血、肺高血圧症
体の部位:心臓

 

💡心室中隔欠損症の症状は、穴が小さい場合には、症状はないかあっても軽いです。

 

穴が比較的大きい場合には、脈が速い、呼吸が速い、汗をたくさんかく(寝汗が多い)、手足がつめたい、ミルクを飲むのがつらそう、などの症状が生後1~2カ月から出始め、その後も身長は正常範囲でも体重増加不良をきたします3)
 
穴が小さい場合は4歳までには自然閉鎖します2,3)

そして、生後2~3カ月で、穴を通る血液の量が増えて心臓に負担がかかり(心不全)、肺動脈に流れる血液の量も増えるため、肺への血液量が増え(肺うっ血)2) 、心不全をきたします(表2)3)

 

表2 心室中隔欠損症と心房中隔欠損症の主な症状2,3,4)

病名 症状
・心室中隔欠損症 ・脈が速い、呼吸が速い、寝汗をかく、手足がつめたい
・ミルクを飲むのがつらそう
・身長は正常範囲でも体重増加が緩やかになる
・チアノーゼ
・肺うっ血、肺高血圧症
・心房中隔欠損症 ・小児期にはあまり症状が出ない
(体重が増えない、他の子より小柄である、走ると息切れしやすい、風邪をひきやすい、といった具合で、はっきりした症状ではないため発見しにくい)
・成人期~中年期に心不全、不整脈、肺高血圧症、心臓弁膜症

2-3.  心房中隔欠損症の原因と症状

●心房中隔欠損症(しんぼうちゅうかくけっそんしょう)
年齢別:出生前~成人
症状別:疲れやすい、不整脈、肺高血圧症、心臓弁膜症
体の部位:心臓

 

💡心房中隔欠損症は、心房中隔に穴が開いているために、穴を通った血流が心臓や肺に負担をかけているのですが、心臓はとても余力のある臓器なので、少々のことでは症状となって現れにくく、幼児・小児期には症状がごく軽いか、まったく無症状のままであることが多いです4)

 

比較的大きな穴が開いていても心臓の雑音や疲れやすいなどがないと診断されずに、小・中学校の健診やクリニックを受診したときに偶然にみつかることも多いです2)
 

穴が小さい場合には2歳までに自然に塞がります2,3)
見た目で判断できる症状はほとんどないことが多く、疲れやすい、運動後の呼吸苦、細身、肺炎や気管支炎になりやすいことがあります。

 

成人までもちこすと、脈の乱れ(不整脈)、肺高血圧症、心臓の弁の病気(心臓弁膜症)をきたすので(表2)、就学前に診断ができると理想的です。

聴診、心電図、心エコーが有用です。
治療しないまま成人期、中年期にさしかかると何らかの症状が出てきます。女性の場合は、妊娠・出産をきっかけに症状が出ることもあります4)

3.  心室中隔欠損症、心房中隔欠損症の検査でわかること

💡心室中隔欠損症心房中隔欠損症では、聴診、胸部X線検査、心電図などで、心臓の病気が疑われる場合には、循環器を専門にしている医療機関で心臓超音波(エコー)検査を受ければ診断がつきます。

 

また、胎児でも心室中隔欠損症は心臓超音波検査で発見されて、生後1年以内に手術で治療されることも多いのですが、胎児はもともと心房中隔が開いている状態なので胎児診断はできません。
 
心臓超音波検査だけで治療が必要かどうかの判断ができますが、ほかの心臓の病気が合併していないか、肺高血圧症の重さはどの程度かを調べるため、心臓カテーテル検査が必要なこともあります3,4)

4-1.  心室中隔欠損症の治療法

心室中隔欠損症では、穴が小さく左心室から右心室に流れ込む血液の量が少ない子どもでは、特に手術治療も内服治療もなしで通常の発育が見込めます。

 

ただし、歯科治療や心臓以外の病気で手術を受ける場合には、感染性心内膜炎予防のため抗生物質(抗菌薬)が必要です。

 

穴が比較的大きい場合には、まず利尿薬や強心薬(ジゴキシンなど)、ACE阻害剤、βブロッカーなどの薬で心臓の負担を軽くします。

薬を飲んでも心不全症状が強い、呼吸器の感染症を繰り返す、肺高血圧症の悪化が疑われる場合には、乳児期早期でも手術をします。

 

手術の間では、心臓の代わりにポンプの働きをする人工心肺を使っていったん心臓を止めた後、心臓を切って開いて心室中隔の穴にパッチをあてて閉じます3)
海外ではカテーテル治療が行われていますが、日本では行われていません(2023年6月現在)。

 

4-2.  心房中隔欠損症の治療法

心房中隔欠損症では、心不全症状が出てきた場合には、心室中隔欠損症と同様に、利尿薬や強心薬(ジゴキシンなど)で心臓の負担を軽くします。

 

不整脈が合併している場合には不整脈をおさえる抗不整脈薬を用いたり、不整脈により起こりやすくなる血栓症を予防するため血液をサラサラにする薬(抗凝固薬)を用いたりします。

また、心室中隔欠損症と同様、感染性心内膜炎予防のため抗生物質を用いることもあります4)

 

左心房から右心房に流れ込む血液の量が多い場合には、手術によって心房中隔の穴を閉じます。

手術には、太ももの付け根の血管からカテーテルを使って折りたたみ傘のような装置を心臓の穴まで届けて穴を閉じるカテーテルインターベンションという方法と、心室中隔欠損症と同様に人工心肺を用いて心臓を切って開いてパッチを当てる方法の2通りがあります。

 
カテーテルインターベンションでは、人工心肺の必要がなく、手術の傷も小さくてすみますが、どのような心房中隔欠損症にも使用できるものではありません4)

5.  心室中隔欠損症、心房中隔欠損症のホームケア

心室中隔欠損症心房中隔欠損症では以下のような点に気をつけます1,2)

(1) 軽い異常でも、専門医による定期的な健診が必要です。
(2) 乳児は、ミルクを飲むことが重労働となり息を切らせることがあります。
💡ミルクは1回の量をやや少なめにして、回数を増やすことも1つの手でしょう。
💡哺乳量が少ないときは、チューブ栄養の併用が必要になることもあります。
(3) 唇の色がいつもより悪い、息苦しそうな様子がみられたらすぐに専門医にかかります。
(4) 風邪から肺炎になりやすい、喘息が症状を悪くするなどがみられるので、喘息の治療も併用します。
(5) 手術後で薬を飲んでいる子どもでも、小学校低学年までは無理をしないで体育ができることがほとんどです。
💡遠足も疲れない範囲であれば参加できることが多いので、主治医の先生と相談しながら参加させてあげましょう。
(6) 小学校高学年や中学生になると、体育やクラブ活動で激しい運動をしなければならなくなるので、心臓に問題が残っている場合には、ある程度の運動制限が必要になります。

 

『参考資料』

1) 金子堅一郎(編):1. 先天性心疾患. 子どもの病気とその診かた第1版. 南山堂. pp197-201, 2015.
2) 財団法人循環器病研究振興財団:代表的な病気と治療. 子どもの心臓病 先天性心疾患の場合. 知っておきたい循環器病あれこれ(73). pp5-12, 2009.
(2023年5月15日閲覧:http://www.jcvrf.jp/general/pdf_arekore/arekore_073.pdf)
3) 国立循環器病研究センター病院小児心臓外科:心室中隔欠損(VSD).
(2023年5月15日閲覧:https://www.ncvc.go.jp/hospital/section/ppc/pediatric_cardiovascular/tr04_vsd/)
4) 国立循環器病研究センター病院小児心臓外科:心房中隔欠損(ASD).
(2023年5月15日閲覧:https://www.ncvc.go.jp/hospital/section/ppc/pediatric_cardiovascular/tr05_asd/)

《 監修 》

  • 松井 潔(まつい きよし) 総合診療科医

    神奈川県立こども医療センター総合診療科部長。愛媛大学卒業。

    神奈川県立こども医療センタージュニアレジデント、国立精神・神経センター小児神経科レジデント、神川県立こども医療センター周産期医療部・新生児科等を経て2005年より現職。

    小児科専門医、小児神経専門医。

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