2025.09.03
フランスのドラベ(Dravet)先生が1978年に医学誌に報告したのが最初とされており、はじめは、乳児重症ミオクロニーてんかんと命名されていましたが、ミオクロニー*2が必ずしも合併して発症するわけではないため、1989年にドラべ症候群に変更されました。1)
てんかん発作の出現年齢、発作症状、脳波異常パターン、頭部画像検査、運動機能、発達、認知機能、その他の神経症状などに一定の共通性を有するグループのこと2)。
*2:ミオクロニー
ミオクローヌス*3がてんかん発作の症状として現れた状態のこと。
*3:ミオクローヌス
自分で動かそうとしていないのに突然筋肉がピクッとけいれんする不随意運動。大脳皮質から脊髄までの間のあらゆるレベルの神経系の易興奮性の症状として出現します。ミオクローヌスはてんかん性と非てんかん性ミオクローヌスに大きく分類されます。
ドラベ症候群は、指定難病であり、また、「乳児重症ミオクロニーてんかん」として小児慢性特定疾病の対象疾患となっています。
国内に約3,000人の患者さんがいると推定されています4) 。
やがて熱がない時にも全身の発作が現れるようになります3) 。
その後、様々なタイプのてんかん発作などが現れます。
早期の診断と、てんかん発作を抑える治療の継続が重要です。
脳は神経細胞と神経細胞の間で常に電気信号を交わしており、情報のやり取りをしたり、体への指令を伝達したりしています。
脳内で一斉に信号が送られて混線しないように、それぞれの神経細胞がスイッチを入れたり(興奮)、切ったり(抑制)しています。
しかし、脳の一部で一斉にスイッチが入ってしまうと、興奮と抑制のバランスが崩れて、興奮性の信号が過剰になると考えられています。
その結果、手足がけいれんする、手足が突っ張って体がこわばる、意識を失う、全身の力が抜けるといった「てんかん発作」が現れます。
ドラベ症候群では、脳内の電気信号の発生や伝達に関わる「電位依存性ナトリウムチャネル」の設計図に生まれつき異常があると報告されています。
そのため、興奮を抑制する方の神経伝達が不十分になると考えられています3) 。
ドラベ症候群では個人や年齢により様々なタイプの発作が起こります。
症状が出るまでは健康です。
生後1年以内に発熱や入浴での体温上昇・予防接種などをきっかけとした全身または片側のけいれん発作からはじまります2,4) 。
この発作は熱性けいれんと診断されることがありますが、脳波検査の異常や発作の重症度、発作の回数などが診断の糸口になります3)。
その後、1~4歳になると様々なタイプのてんかん発作が現れます3)。
特徴的なのは、光に過敏で、縞模様や点滅する光を見ることでミオクロニー発作や非定型欠神発作が誘発されます。
ミオクロニー発作は、顔や手足などの、どこか一部分の筋肉がぴくっと動き、短時間で終わる発作で意識は保たれています。
全身に症状が出た際は飛び跳ねるようになります。
非定型欠神発作は、ぼんやりするような発作で、数秒間意識を失い話しかけても反応しません。
これらの発作から全身けいれんへ移行する場合があります4)。
赤ちゃんが歩き始める1歳ごろになると、運動失調であることに気がつきます。
歩き始めるのが他の子どもよりも遅いことや、歩行可能になっても不安定(ふらつきが持続する)なことが多いです。年齢とともに目立たなくなる傾向がありますが、長期間認められます。
錐体路徴候(四肢の動きが硬くなる)があり下肢の深部腱反射や、異常な足底反射を伴うことがあります。
発達については個人差があり、緩やかに発達する子もいれば、発達が止まり、重度から境界域まで様々な知的障害を有する子もいます。
また、自閉傾向が明らかになっていきます。
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治療により、けいれん重積の減少、発作の減少が期待できます。
しかしながら、治療は進歩してきていますが、予期せぬ死や重積発作、急性脳症などで死亡することがあります3,4) 。
予期せぬ死に関しては患者さんの心拍変動が関係しているのではないかとされています。
幼児期になると、特徴的な脳波が認められます。
光の刺激や幾何学的な模様を見ることで、発作とともに特徴的な脳波が現れます。
発症時のMRIは正常です。
遺伝学的検査も重要です。
電位依存性ナトリウムチャネルの一部分の設計図であるSCN1A遺伝子の異常を調べます。
頭部の画像検査、血液検査、尿検査では、ドラベ症候群に特徴的な異常はありません。
ビデオカメラで発作の様子を動画撮影しておくと、医師がてんかん発作のタイプを正確に把握する上で貴重な資料となります。
抗てんかん薬としては、バルプロ酸ナトリウムやクロバザム、エトスクシミド、臭化物などを中心に、てんかん発作のタイプや発作のコントロール状況によって薬の種類を追加したり、変更したりします3)。
その中には、ドラベ症候群に特化した抗てんかん薬であるスチリペントールもあります。
バルプロ酸とクロバザムは血中濃度が上昇することがあります。
2022年には、それまでの薬とは効き方が異なるフェンフルラミン塩酸塩という抗てんかん薬も発売されました。
薬以外の治療法としては、糖と炭水化物を減らし、脂肪を増やす「ケトン食療法」が行われることがあります。
脂質から産生されたケトン体が、脳の興奮を抑制する方向の神経伝達を優位にすると考えられます5)。
神経細胞はベータ酸化もケトン体合成もできず、ケトン体分解のみが行えます。
一方でアストロサイトはベータ酸化、ケトン体合成、ケトン体分解全てができる為、アストロサイトの機能変化を抑制する治療戦略によって、てんかんの重篤化の予防に繋がることが期待されます。
照明、衣服、壁、本などに配慮します。視野を遮ったり顔を背けさせたりするほか4) 、サングラスをかけて外出することを勧める意見もあります3) 。
発作で転倒して頭部を損傷しないように、保護帽をかぶる方法がありますが、熱がこもってしまうリスクがあります4)。
睡眠中は、うつぶせ寝を避け、万が一の時に窒息を避けられるよう、寝具選びも気をつけましょう3) 。
ドラベ症候群の患者さんは、医療だけでなく、介護・福祉や教育の面でも支援が必要となります。
通院している医療機関やお住まいの自治体の相談窓口を活用しましょう。
詳しくは、ドラベ症候群患者家族会のウェブサイトにまとめられています(https://dravetsyndromejp.org/)。
「参考資料」
1) 小児慢性特定疾病情報センター.(2025年3月閲覧: https://www.shouman.jp/disease/details/11_23_061/)
2) てんかん情報センター.(2025年3月閲覧: https://shizuokamind.hosp.go.jp/epilepsy-info/question/faq1-3/)
3) Bureau M,ほか編集.井上有史監訳.てんかん症候群-乳幼児・小児・青年期のてんかん学〈原書第6版〉.中山書店、2021.
4) 難病情報センター.(2025年3月閲覧: https://www.nanbyou.or.jp/entry/4744)
5) 奈良医療センター てんかんセンター.(2025年3月閲覧: https://nara.hosp.go.jp/html/tenkan/Foodtherapy.html)
《 監修 》
松井 潔(まつい きよし) 総合診療科医
神奈川県立こども医療センター総合診療科部長。愛媛大学卒業。
神奈川県立こども医療センタージュニアレジデント、国立精神・神経センター小児神経科レジデント、神川県立こども医療センター周産期医療部・新生児科等を経て2005年より現職。小児科専門医、小児神経専門医。
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保護者の方が、休日・夜間の子どもの症状にどのように対処したらよいのか、病院を受診した方がよいのかなど判断に迷った時に、小児科医師・看護師に電話で相談できるものです。
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