2023.12.04
1. 子どもの糖尿病 とはこんな病気
2. 子どもの糖尿病 の原因
3. 子どもの糖尿病 の症状
4. 子どもの糖尿病 の検査でわかること
5. 子どもの糖尿病 の治療法と薬
6. 子どもの糖尿病 のホームケアと予防
表1:糖尿病の種類:1型糖尿病と2型糖尿病1,2)
表1 | 1型糖尿病 | 2型糖尿病 |
---|---|---|
患者さんの割合 | 乳児期にはほとんどが1型 | 小学生・中学生では約60%が2型 |
体格 | やせ型が多い | 肥満型が多いがやせ型もみられる |
主な発症年齢 | 25歳以下が多い | 中高年以降が多いが、小学生や中学生の小児も増えている |
主な誘因 | 遺伝素因(体質)とウイルス感染などによる免疫の異常 | ・食べ過ぎ、運動不足、ストレスなど ・家族歴があることが多いため遺伝素因(体質)も関係していると思われる |
発症の経過 | 急激に発症 | 年月をかけゆっくり発症 |
症状 | のどの渇き、多飲、多尿など | 無症状なことも多く、学校の検尿で発見されることも |
治療 | インスリン注射が絶対に必要 | ・食事療法と運動療法が基本 ・血糖降下薬の内服やインスリン注射を併用することも |
膵臓(すいぞう)から分泌されるインスリン* は血液中のブドウ糖(血糖)を少なくする働きがあるホルモンです。
このインスリンの分泌や働きが悪くなると、血糖値が高くなり、ブドウ糖が尿の中に漏れ出し糖尿病となります1) 。
子どもに多いのは1型糖尿病ですが3) 、最近では、子どもの運動不足や肥満の増加に伴い、2型糖尿病の子どもも増えてきています1) 。
日本の小児で1型糖尿病の治療を受けている人は、約6,500人だといわれています1) 。
男女差はなく、5~7歳、思春期の2つのピークがあります。
1型糖尿病の詳しい原因は分かっていませんが、遺伝素因(体質)とウイルス感染などによる免疫の異常により、膵臓のインスリンを分泌する細胞(膵臓のランゲルハンス島にあるβ(ベータ)細胞)が破壊され、インスリンが不足・欠乏することによって起こると考えられています3) 。
2型糖尿病の原因は、インスリンの働きの低下(インスリン抵抗性)や、インスリンの分泌の低下の原因となる複数の遺伝素因(体質)に、食べ過ぎ(カロリーの高い食事)、運動不足、肥満、ストレスや年齢が加わることによると考えられています4) 。
インスリンの不足が続いて血糖値が高くなると、体は尿の量を増やして余分な血糖を体外に排出しようとするので、尿の量が増えます(多尿)。
多尿になると、体の水分が不足してのどが渇くのでたくさん水を飲むようになります(多飲)。
多飲になるとさらに多尿になります1) 。
幼児期の多尿は、おねしょ・おもらしの原因になります。
小学生以降では夜にトイレに起きるようになって(夜間の頻尿)、周囲の人が病気に気づくこともあります。
また、食べ物のエネルギーを十分に利用できなくなるため、やせる(体重減少)、疲れやすい、元気がなくなるなどの症状もみられますが1,2) 、自覚症状が強くないので、患者さんは自分が糖尿病であると意識していないこともあります4) 。
1型糖尿病で、インスリン不足がさらに進むと、脂肪を分解してケトン体を作ってエネルギーを補おうとします。
しかし、これも限界となると、吐き気、嘔吐、腹痛、大きく深い呼吸、意識障害などの症状が現れる「糖尿病ケトアシドーシス」という危険な状態になることがあります5) 。
一番怖い合併症は脳の障害です。
さらに、糖尿病のコントロールが不十分だと、1型でも2型でも糖尿病合併症(成長障害、白内障・網膜症、神経障害、腎障害)を引き起こすことがあります。
1型糖尿病の検査では、血糖値、HbA1c(へもぐろびん・えー・わん・しー)を測定するほか、膵臓のβ細胞が自己免疫反応によって破壊されていないか血液検査をして、自己抗体の有無を調べます。
さらに、ケトアシドーシスの有無、インスリンによる治療が必要かなども確認します。
2型糖尿病の検査では、① 空腹時の血糖値、② 75g経口ブドウ糖負荷試験(検査用のブドウ糖液を飲んで2時間後の血糖値)結果、③ 随時血糖値(200mg/dL以上)、④ HbA1cの測定により、高血糖状態が続いていないか確認します。
1型糖尿病の治療では、不足したインスリンを補充します。
インスリンの補充は、インスリン注射か、インスリンポンプによるインスリン持続投与で行います(図1)3) 。
インスリン注射は、食事のタイミングなどに合わせて1日に4~5回行います。
インスリンポンプでは、食事などの生活に合わせたインスリンの持続的な補充が行えます。
インスリンを使ってしっかりと治療できれば、日常生活、学校生活に特別な制限をしなくてもよい状態が保てます1) 。
低血糖は、① いつもより運動量が多い、② 食事を抜いたり、食べる量が少なかったりした、③ 嘔吐した、などにより
インスリンが効き過ぎて血糖値が下がることです。
一般的な低血糖は、キャンディ、ジュース、砂糖などを摂取することで回復します3) 。
食事療法や運動療法も、インスリンの必要量を減らしたり効き目をよくしたりするうえで大切ですが5) 、特別な食事制限の必要はありません。
同じ性別・年齢の子どもと同等のエネルギーを摂って、身長、体重をはじめ精神面でも成長を促すようにします。
食事療法の基本は、以下の4つです2) 。
2型糖尿病の治療では、まず食事療法と運動療法を行います。
2型糖尿病では、肥満の子どもがほとんどですが、食事制限というよりも、本来の年齢に合わせた摂取カロリーにすること、そして3食規則正しく、栄養のバランスが取れた食事ができるように病院などの栄養士の指導を受けます。
運動も適度にして、30分程度の散歩から開始し、体重の維持を目標にして、身長が伸びることによって肥満が解消できるようにします。
必要に応じて、血糖降下薬やインスリンを使うこともあります1) 。
1型糖尿病でインスリンが必要な患者さんでは、シックデイの時に糖尿病ケトアシドーシスを発症することがあります。
シックデイに補充するインスリンの量を主治医に相談しましょう。
自分の判断でインスリンを中止してはいけません 3,6) 。
1型糖尿病の患者さんでは、同じ病気の人と触れ合う機会が少ないため、孤独になりやすく、また、自分で自分の体に注射をするのはなかなか難しいものです。
そこで、同じ病気の子供と触れ合い、インスリン補充について学び、糖尿病でも元気で活動できることを体験するための「小児糖尿病サマーキャンプ」が毎年開催されています3,7) 。
小児糖尿病サマーキャンプについては、日本糖尿病協会のホームページをご覧ください
(URL:https://www.nittokyo.or.jp/modules/patient/index.php?content_id=23)。
💡小児の糖尿病では、お子さんの発達段階に合わせたサポートが大切です。
乳幼児期には糖尿病の管理は保護者が行うことになります。
小学校に入学すると、自己管理がスタートし、学校での注射や捕食が自分でできるようになってきます。
中学に入学するころには、療養の主体が患者さん本人に移ります1)。
これらの発達段階のうち、保護者が最も不安になるのは、幼稚園や保育施設でのお子さんの生活ではないでしょうか。
園の方でも、糖尿病の患者さんの入園には戸惑うこともあるそうです。
そこで、日本小児内分泌学会と日本糖尿学会では、保護者や園の職員の不安や戸惑いを解消することを目的とした、「1型糖尿病(インスリン治療を必要とする)幼児の幼稚園・保育施設への入園取り組みガイド」(PDF)2)をネット上で公開しています
(URL:http://jspe.umin.jp/iframe/files/guideline_190726.pdf)。
このガイドには、糖尿病の治療やお子さんの入園後の生活や保護者の対応について具体的に書かれていますが、入園前や入園中のお子さんがいらっしゃる保護者以外の方にもご参考にもなるでしょう。
《 監修 》
松井 潔(まつい きよし) 総合診療科医
神奈川県立こども医療センター総合診療科部長。愛媛大学卒業。
神奈川県立こども医療センタージュニアレジデント、国立精神・神経センター小児神経科レジデント、神川県立こども医療センター周産期医療部・新生児科等を経て2005年より現職。
小児科専門医、小児神経専門医。
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