【インタビューVol.07後編】「 発達障害 の療育現場」ってどんなところ?自分の苦手と折り合い、得意を伸ばしていく場に【医師監修】

2025.04.08

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【監修】公認心理師・臨床発達心理士:池畑美恵子(淑徳大学 総合福祉学部 教育福祉学科 教授・淑徳大学発達臨床研究センター センター長)

――前編では、淑徳大学発達臨床研究センターで、発達に気がかりやつまずきがある子に対して行っている療育について、淑徳大学発達臨床研究センター長であり、淑徳大学 総合福祉学部 教育福祉学科 教授の池畑美恵子先生にお聞きしました。

 

 

後編では、淑徳大学発達臨床研究センターで療育に使っている教材のほか、保護者に向けた相談やサポート体制についてお話いただきました。

 

〈おだやかに、ゆったりと語りかけてくれる池畑先生。子どもや保護者の支援だけでなく、将来的に発達支援や教育の現場で活躍していくであろう学生も数多く育てています。〉

教材によって、子どもの理解、興味を広げていく

――こちらの療育で使っている教材はどのようなものですか?

 

池畑

既製品もありますが、独自に開発・製作したものも多いです。
楽器も市販のものだけではなく独自に製作しているものも。
既製品も、より子どもの手が伸びやすく、よりかかわりやすいものに改良するなどして、感覚と運動を通して、子どもが実感をもって学べる教材を作ってきました。
木で作っているものが多いので、長持ちします。

 

――木を使うのは、手触りを大切にされているからですか?

 

池畑

それもあります。
ほかにも「手に持ったときに重さがある」、型にはめたときに「カチッとはまる感覚」も木の良さです。
それも感覚と運動にかかわる面白さにつながります。

 

――療育で教材を使うと、どのような発達につながるのですか?

 

池畑

個別療法では、目と手を使う教材や、ものに興味を持ち、ものの仕組みを考えて試行錯誤することにつながる教材や、ものを見分ける、音を聞き分ける力を育てる教材を多く用います。
見分けるのは視知覚、聞き分けるのは聴知覚といい、認知の発達につながるとともに、結果的に「ことば」につながっていきます。
発達の段階が進んでいくと、ことばでの理解や表現ができるようになり、イメージの世界も理解して、大人と一緒にごっこ遊びのようなことができるようになります。
文字や数を学ぶことも大事な学習ですが、いきなり「これは“あ”だよ」と教えるのではなく、基礎となる部分を育てるのを私たちは重視していて、教材を活用してそこを丁寧にやっていきます。

 

〈センターで手作りし、改良を重ねてきた型はめの教材。形、色などさまざまな組み合わせで遊ぶことができます。ピースを型にはめたときのカチッとする手ごたえも「やってみたい」という気持ちにつながります。〉

〈色とりどりのビーズは、触るとビーズが触れ合う音や鈴の音がして、楽しみながら目と耳を使える教材です。またひもがゴム製なので、表面だけでなく中に手を入れた感触を楽しめるのも手作りならではです。〉

育児につらさを感じているなら、まずは相談に

――こちらにはどのような経緯で相談に来るケースが多いですか?

 

池畑

検診で指摘を受けた、保育所、幼稚園などの生活に入って気になる点があったという場合が多いです。
過去に通われていた方や、園や学校の先生などから聞いてこちらにいらっしゃる方が多いですが、自力で検索されてたどり着いたという方もいます。

 

――保護者としては、気がかりがあればすぐに相談や療育を考えたほうがいいのでしょうか?

 

池畑

そうとは限らないと思います。
ちょっと気になるところはあるけれど、お子さんが毎日を楽しくすごしていて、親御さんも成長を感じながら楽しく育児ができていて、「この子はこの子なんだ」と思えるなら、慌てて探したり、急にあちこちの療育に通わせたりして生活を大きく変えなくてもいいと私は思っています。
「何をやってもうまくいかない」「この子はどうしてこういう反応なのだろう?」と、育児につらさを感じているようであれば、まずは相談いただくのもひとつの手です。

 

――こちらには何年くらい通われるお子さんが多いのですか?

 

池畑

幼児の場合は就学まででひと区切りになりますが、2年で終了される方もいれば、4年通う方もいます。
学齢期のお子さんはスタートの学年はさまざまですが、こちらに通うのは最長でも3年間と決まっています。

 

――小学生の場合はどのような療育を行うのですか?

 

池畑

小学生も個別と集団があり、集団療法ではサーキットではなく友達と動きをあわせるような活動を取り入れています。
あるグループでは子どもたちから希望が出てボッチャをやりました。
また、広いキャンパスの中にあるので、外に出て、大学内の施設を利用して体を動かすこともあります。

「自分の得意」が見つかると子どもは伸びていく

――こちらでの療育を終了された親子にはどのようにかかわっているのですか?

 

池畑

小学校2年生までは毎年夏休みに日を設けて来所していただき様子を伺っています。
その後も希望のある方は、フォローアップとして年に4、5回お声がけをしてお呼びしています。
お子さんが個別療法を受けたり、学齢期だと集団で製作活動をしたりしている間に保護者の方に最近のお話を聞いて、ご希望があれば後日また面談を行っています。
私たちもフォローアップでお話を聞くことで、お子さんの育ちについて学ぶことができてありがたいです。

 

――フォローアップでは、どのようなお話が聞かれるのでしょうか?

 

池畑

発達に凸凹があるお子さんに対して、「得意を活かしていく」とよく言いますが、実はその意味があまり実感できないという保護者も多いと思います。
ただ比較的長いスパンでその子の成長を見ていくと、例えば幼児期に喋りすぎてしまう傾向のあったお子さんが、中学生になって生徒会に立候補したとか。
そういったお話を通じて「良さを活かす、得意を活かす」とはこういうことなんだと実感します。
療育を通じて、苦手なところに折り合いをつけたり、自分なりに工夫してカバーができたりするようになると、得意な部分として活きてくるのでしょうね。

 

――そこが確立されると、ほかの面でも成長が見られそうですね。

 

池畑

そうですね。
「自分のキラリはこれだ」と思えるようになると伸びていきます。
小学生のグループではそうなるような活動も取り入れていて、「自分が話したいことをみんなに伝えるようにまとめてみよう」と働きかけると、子どもなりに「この説明で伝わるかな?」と他者の視点を考えるようになっていくのです。
園や学校では発揮できない力をここではまわりの大人や子どもの助けで伸ばすことができ、いろんなことを獲得していけたらと思っています。

保護者も「療育の肝」を学んでいく機会に

――そういった成長がみられるには、ある程度長い時間が必要そうですね。なかには「すぐに効果が出ない!」と焦ってしまう保護者の方もいらっしゃるのではないでしょうか?

 

池畑

そうですね。
「ずっと同じことを繰り返していて大丈夫ですか?」「集団療法なのにグループの中にいられないのですが」など、不安の声が出ることはあります。
その場合は保護者の方の不安もきちんと聞き取ったうえで、お子さんは今どのような段階にあるのか、お子さんの行動にはどのような背景があるのか、そして私たちはどのような意図で対応しているのかを説明するようにしています。
保護者の方もモヤモヤしたままだとよくないので、多少時間がかかってもしっかり説明して、納得してから帰っていただきます。
一度納得してもらえると、次に同じような場面があったときにも「何か意図があるんだ」と思ってくださるので。

 

――保護者の方へのかかわりも大切な療育の一部なのですね。

 

池畑

そうです。
そういったやりとりを経て、親御さんもお子さんとの向き合い方といった療育の肝をつかんでいかれるのを願っています。

 

――療育に通っている保護者の方には、その都度どのようなサポートをされているのですか?

 

池畑

毎回いらしたときに何かあれば相談を受けられるようにしています。
ほかにも保護者講座として、私やスタッフが子育てに役立つお話をさせてもらうこともありますし、卒園した保護者の方に来ていただいて、その後のお子さんの様子についてお話いただくこともあります。

 

――保護者どうしの横のつながりも広がっていきますね。

 

池畑

そうですね。
集団療法のグループは基本的に同じメンバーなので、次第に顔なじみになって情報交換している姿もみかけます。
保護者の方が孤独にならず、そういった横のつながりで悩みを話せる関係の人ができることは、結果的に子育てにも活きてくると思います。

まとめ:療育を通じて、子どもは「自分の得意」を見つけていく

療育は「できないこと」をできるようにするのではなく、自分が苦手なことをカバーする方法を学び、得意なことを伸ばしていくのが本来の目的と言えるでしょう。

 

「得意」を見つけた子どもは、療育を卒業した後も成長していきます。
保護者に子どもの力を伸ばすためのかかわり方を知ってもらうため、保護者サポートも行っていきます。
 
 

 
淑徳大学発達臨床研究センターは淑徳大学キャンパスの校舎内にあり、学部3年生、4年生および大学院生の臨床実習の場でもあります。

 

▶淑徳大学発達臨床研究センター:https://www.shukutoku.ac.jp/university/facilities/welfare/hattatsu) 
発達に気がかりやつまずきを示す幼児、小学生を対象にした個別療育、集団療育をはじめとする発達相談や支援、保護者へのサポート、幼稚園・保育園・こども園・小学校など関係機関との連携を行っている。

《 監修 》

  • 池畑 美恵子(いけはた みえこ) 教授

    淑徳大学 総合福祉学部 教育福祉学科 教授 
    淑徳大学発達臨床研究センター長
    公認心理師、臨床発達心理士
    発達に気がかりやつまずきのある幼児と小学生の療育・学習支援と臨床研究を行っている。
    著書:感覚と運動の高次化理論からみた発達支援の展開- 子どもを見る眼・発達を整理する視点(学苑社)など

     

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