【Vol.05後編】「 夜尿症 」ってどんな病気?生活改善と子ども自身の前向きな気持ちが治療につながる【医師監修】

2024.11.11

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【監修】小児科医:久保田亘先生(二子新地ひかりこどもクリニック院長)

トイレトレーニングが完了したはずの子どもが、おねしょを繰り返す「夜尿症」。

前編では、二子新地ひかりこどもクリニックで「夜尿症」の治療を行っている久保田亘先生に、その原因や治療方法についてお聞きしました。

 

 
恥ずかしさや焦りなどメンタル面が、夜尿症の治療には大きく関わってくるそうです。
家庭ではどのようなケアや声かけをしていくと、治療の助けになるのでしょうか?
 

〈夜尿症の治療にはメンタルも大きく関わると話す久保田先生〉

日中の排尿に困難がある子は、まずトイレの仕方の指導を行う

――夜尿症の治療は子どもが小さいうちに始めた方がいいのですか?

 

久保田

夜尿症は年齢が小さいうちに治療した方がよいかというと必ずしもあてはまりませんが、本人のおねしょに対する気負いや自尊心に影響することがあるため、対応が遅くなりすぎないよう注意が必要です。

 

――受診をする際、事前に準備をしておいた方がいいことはありますか?

 

久保田

最初の受診では夜尿の頻度や便秘があるかどうか、夕食や就寝時間など普段の生活リズム、どのくらい水分を取っているかなどを聞いていきます。
治療の中で夜尿日誌を付けていきますが、来院されてお話を聞いてもらい、「こういうところに注意して書いてほしい」と伝えてから記録してもらっています。
診察前に特別な準備の必要はありません。

 

――夜尿症の治療に当たって、家庭でのケアはどのようなことがありますか?

 

久保田

実は夜尿症のお子さんのなかには、膀胱機能の未熟さがあり、日中にちょっと漏れてしまっていたり、トイレに間に合わなかったりしていることがあります。
そのような状態があるお子さんには、日中のトイレの仕方について指導することがあります。

 

――トイレの仕方の指導とはどのようなものですか?

 

久保田

膀胱機能が安定していると、尿意を感じてから「漏れる!」となるまでに時間的な余裕があり、漏れる限界に達する前にトイレに行くのが通常の排尿の仕方です。
しかし、膀胱機能が未熟だと「トイレに行きたい」と思った瞬間には漏れそうになってしまいます。
「もう漏れそう!」と切迫している状態を尿意切迫といいますが、尿意切迫が起きて慌ててトイレに行くような排尿の仕方はよくないので、そうなる前にトイレに行く習慣をつけます。
何かに集中するとトイレに行くのを忘れてしまうので、ゲームをする前、テレビを見る前、食事の前など、何か始める前にトイレに行くよう指導します。
なかなか本人だけで難しいので、ご家族から声かけしてもらいトイレを促してもらうこともあります。
小学生の場合は、学校の先生にサポートをお願いすることもあります。

 

――学校でも決まった時間にトイレに行くということですね。

 

久保田

授業と授業の間の休み時間、給食の前、帰宅する前には必ず行くようにします。
学校から家までの帰り道、家が近づいてくると急にトイレに行きたくなってバタバタ駆け込むことがありますよね。
そうならないように、学校でトイレに行ってから帰るようにしようねと伝えています。
また、そういう子はおしっこの出し方が雑なことも多いです。
5~10秒くらいでちゃちゃっと済ませ、実はまだ膀胱におしっこが残っていることがあります。

 

――1回のトイレにある程度時間をかけた方がいいのですね。

 

久保田

膀胱機能が正常な人が排尿にかける時間は約20秒といわれています。
膀胱機能が未熟な子は排尿後も残尿があることが多く、出なくなったと思っても、さらに10秒くらい待つように指導します。

そうして日中の尿失禁や尿意切迫がないように指導していくと、膀胱機能が安定し、夜間の膀胱機能にもよい影響を与え、夜尿症が治ることがあります。

本人が前向きに治療に取り組めるよう家族と主治医でサポートしていく


〈診察室には子どもたちからの手紙が。子どもからの信頼の厚さが伝わります。〉
 

――夜尿症だと水分を取り過ぎないよう制限があると聞きました。夏場は熱中症の心配もありますが、水分量を制限しても大丈夫なのでしょうか?

 

久保田

日中は水分の制限をする必要はありません。熱中症にならないように積極的に水分を取ってもらって構いません。夜尿症に関わるのは、夕飯から寝るまでの水分の取り方です。癖でごくごく飲んでしまう子もいるので、コップを小さめにしたり、ストローで飲むようにしたりする。あまり汗をかかないように室内を涼しくする、お風呂で長湯をしないなどの工夫もあります。

 

――夜間の水分はどのくらいに収めるといいのでしょうか?

 

久保田

夕飯から寝るまでは200ccくらいと指導しています。
冷たい水を飲むから夜尿につながるわけではないので、喉が渇いたら水を飲むのではなく氷をなめるのもいいです。
口の中でゆっくり溶けるので満足度が高く、氷なら3個食べても100cc程度です。
小学校高学年以上のお子さんなら、「どうしたら200ccに収められるか考えてみて」と自分で考えて工夫してもらうようお話もしています。

 

――自分で考えることが大切なのですか?

 

久保田

自分で考えたことを家族にも協力してもらいながらやってみて、うまくいく方法を見つけていくことが大切です。
5、6歳ではまだ難しいかもしれませんが、小学生の場合は自分で原因に気付いて、主体的に取り組んでいくことが欠かせません。
夜尿症で困るのは家族でなく子ども自身で、よくなってうれしいのも子ども自身です。

 

――本人が前向きに治療に取り組むことが大事なんですね。

 

久保田

診察の時は、なるべく前進していると感じられるような声かけをしていきます。
「前よりおしっこがためられるようになったね!」「1週間連続で成功したね!」と声をかけると、努力をして成功した子たちは、「ここをがんばったよ!」「こうしたらうまくいった!」と自分で話してくれるようになります。
そうして本人が「治っている」と意識をすることによって、より夜尿症自体が治っていくのだと思います。

 

――親も前向きな声かけをした方がいいですか?

 

久保田

そうですね。
もし失敗したとしてもそれを責めるのではなく、「夜尿日誌」を振り返るなどして「寝る前のトイレを忘れちゃったからだね。寝る前のトイレは大事だね」「少し水分を取り過ぎたかもね」と一緒に失敗した原因探しをしてもらいます。
「夜尿日誌」もなるべく自分で書かせると失敗の原因を意識しやすくなり、どのぐらい成功しているのか実感もできるようになります。
文字を書くのが難しければ、成功したらシールを貼るなどできるところは本人がやる形にしてもらいます。

 

――本人の取り組み方と同じくらい家族の関わり方も重要ですね。

 

久保田

とても大きいです。
水分の飲み方、食事の内容、トイレの声かけなどは保護者が関わってきます。
アラーム療法も家族の協力がないとできないので、「きょうだいがアラームで寝不足になる」など抵抗がある場合は無理には勧めません。
育て方によって夜尿症になることはないので、親御さんご自身を責める必要はありません。

 

――親としては夜尿症の治療をしたいと思っていても、本人にその気がなければ急がない方がいいのでしょうか?

 

久保田

小学生になっても本人が全く気にしていないようなら、そんなに焦って治療をしなくてもいいとは思いますが、年齢が上がると学校での宿泊行事やスポーツクラブの合宿などもあるので、早めに受診はしてもらった方がいいかもしれません。

 

――診察を受けるうちに、本人にやる気が芽生えることも?

 

久保田

お子さんが本当に気にしていないのではなく、症状がよくなった経験がないので、「どうせ治らない」と諦めている場合もあります。
最初は本人にやる気がないように見えても、少しアドバイスして成功する日が出てくると顔つきが変わってくるんですよ。
そうやってスイッチを入れて、モチベーションを高めるのが主治医としては、難しいですがやりがいのあるところだと思います。

まとめ:少しずつでも前進していく感覚があると早く治る

日中を含めたトイレの仕方の指導を受ける、夜間の水分補給の工夫、「夜尿日誌」で原因を把握するなど、本人が「治したい」と思って取り組むこと、そして結果が出ることで少しずつでも気持ちの変化が治療につながります。
家族もそれをサポートする体制が大切です。

 

 

《 監修 》

  • 久保田亘(くぼた わたる) 小児科医

    二子新地ひかりこどもクリニック院長。
    日本小児科学会認定小児科専門医。
    昭和大学医学部卒業後、慶應義塾大学病院小児科学教室に入局。
    東京都立小児総合医療センターで腎臓内科などへの勤務を経て、2017年に地域医療に携わるため、「二子新地ひかりこどもクリニック」院長に就任。
     
    ■HP【https://miyakawa-clinic.jp/】二子新地ひかりこどもクリニック
    小児科一般外来のほか、皮膚科、夜尿症、アレルギー疾患、成長(低身長・思春期早発・肥満)、便秘などの専門外来も。
     
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    保護者の方が、休日・夜間の子どもの症状にどのように対処したらよいのか、病院を受診した方がよいのかなど判断に迷った時に、小児科医師・看護師に電話で相談できるものです。
    この事業は全国統一の短縮番号♯8000をプッシュすることにより、お住いの都道府県の相談窓口に自動転送され、小児科医師・看護師からお子さんの症状に応じた適切な対処の仕方や受診する病院等のアドバイスを受けられます。
    厚生労働省ホームページ:子ども医療電話相談事業(♯8000)について

     

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