不妊治療での 血液検査 で分かることは?(ホルモン検査、ホルモン負荷検査)【医師監修】

2020.02.03

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月経(生理)周期と 血液検査【監修:洞下 由記(ほらげ ゆき) 産婦人科医】

女性のホルモンの分泌量は、たえず変化しています。

 
ホルモンの量が変動することで卵巣の中で卵子が育ち、排卵し、妊娠できる状態を保ったり、妊娠しなければ月経が起こったりします。
毎月の規則的なホルモン分泌のリズムによって、排卵や月経が起こっているのです。

こうしたホルモンの分泌が正常かどうかを調べるのがホルモン検査です。
採血によって数値を調べますが、採血する時期によってホルモンの値は異なります。

 

まず、月経中(月経開始3〜5日目)の低温期にホルモンの値を測り、これを基礎値とします。
通常このときは、黄体化ホルモン(LH)、卵胞刺激ホルモン(FSH)、エストロゲン(エストラジオール/E2)の値を測ります。
また高温期には、排卵の後に分泌量が上昇するプロゲステロン(黄体ホルモン/P)の値を調べます。

それぞれのホルモンの役割

○黄体化ホルモン(LH)、卵胞刺激ホルモン(FSH)

LHとFSHは脳の下垂体というところから分泌されていて、卵巣に働くホルモンです。
基礎値は普通10mIU/ml以下で、FSHのほうがLHより高くなっていることが大切です。

LHがFSHより高くなっている人は「多嚢胞性卵巣症候群」の可能性があります。

FSHが10mIU/mlを超える場合には、閉経と似たホルモン状態になっていて、卵巣年齢が高い可能性があります。きちんと月経がきていても、卵巣に残る卵子が少ないことが予想されます。

 

プロラクチン(PRL)

プロラクチンは脳の下垂体から分泌されるホルモンで、主に母乳を出す役目があり、体内では他にもさまざまな働きを担っています。正常値は15 ng/ml以下です。

プロラクチンの値が高い状態を「高プロラクチン血症」といい、排卵が抑制されることがあります。数値が高い場合は、プロラクチンを下げる薬を服用することがあります。
また、最近では、プロラクチン値が低すぎても良くないといわれています。

 

○エストロゲン(エストラジオール/E2)、プロゲステロン(P)

エストロゲンは、卵巣の卵子の付近から分泌されるホルモンです。基礎値は50 pg/ml前後で、卵子が育つにつれて高くなり、排卵直前には卵子1個当たり200くらいまで上昇します。
排卵誘発剤などの薬を使用してたくさんの卵が育っている場合には、エストロゲンの値が数千にも上昇します。
体外受精の治療では、このエストロゲンを測定して、その周期にどれくらいの卵子が育っているかの指標にしています。

プロゲステロンは、排卵後に上昇するホルモンです。排卵前は1ng/ml以下で、排卵後ゆるやかに10ng/mlくらいまで上昇し、その後低下します。エストロゲンとプロゲステロンが低下すると、月経が起こります。
エストロゲンやプロゲステロンは卵巣から分泌されるホルモンですが、それをコントロールしているホルモンがLHやFSHです。
FSH の作用で卵胞は大きくなり、エストロゲンが作られます。排卵直前にはLHが急上昇し(LHサージといいます)、卵巣に作用して排卵させます。

月経周期に伴うホルモン値の変化を図にすると以下のようになります。

 

[月経周期とホルモン分泌のサイクル]

(作成:洞下由記先生)

ホルモン負荷検査

ホルモン分泌について、より詳しく調べる検査で、排卵障害の原因を確認するために行われます。

 
排卵障害がなくても、必要に応じて行うこともあります。
 
ホルモン値は常に関係し合って変化しているので、一度のホルモン検査で分かることには限界があります。
毎日採血をするわけにもいかないので、刺激に対してどのようなホルモン値の変化が起こるかを測定するのが、ホルモン負荷検査です。

 

○LH-RHテスト

排卵障害の原因が、脳の下垂体にあるのか、視床下部にあるのか、卵巣にあるのかを判別する検査です。
検査の煩雑さもあり、最近はあまり行われません。

LH-RH(注射)を投与して、15分・30分・60分後のLHとFSHの変化を調べます。
排卵障害の原因が脳の下垂体にあるのか、視床下部にあるのか、卵巣にあるのかを判別できます。
多嚢胞性卵巣症候群ではLHが急上昇し、FHSがあまり変わらないという、特徴的な変化を起こします。

 

○TRH(甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン)テスト

プロラクチンの分泌について調べる検査です。
プロラクチンは1日の変化が大きいホルモンで、夜間や食後などで高くなります。

TRH(注射)を投与して、15分・30分・60分後のプロラクチンの変化を調べます。
一度の採血で正常でも負荷検査で上昇する場合、「潜在性高プロラクチン血症」といい、必要に応じて薬を内服することもあります。

その他の血液検査

○甲状腺ホルモンの検査

甲状腺は首の部分にある臓器で、甲状腺ホルモン亢進症(バセドウ病)や低下症(橋本病)は若い女性に比較的多い疾患です。甲状腺ホルモンの異常があるとホルモンバランスが崩れて排卵障害が起こったり、流産の原因になったりすることもあるので、治療が必要です。

 

○血糖とインスリンの検査

血糖は、空腹時に採血して測定します。
糖尿病がある場合は、妊娠で悪化するので治療を先に行います。
血糖を下げるホルモンにインスリンがありますが、インスリンが働きにくい状態である「インスリン抵抗性」が排卵障害と関わっていることが分かっています。
多嚢胞性卵巣症候群の場合にインスリン抵抗性が見られることがあります。
インスリン抵抗性がある場合は、血糖下降薬を用いると排卵がうまくいくようになることがあります。

《 監修 》

  • 洞下 由記(ほらげ ゆき) 産婦人科医

    聖マリアンナ医科大学助教、大学病院産婦人科医長。2002年聖マリアンナ医科大学卒業。

    不妊治療をはじめ、患者さんの気持ちや環境を一緒に考えてくれる熱血ドクター。日本産科婦人科学会専門医、日本生殖医学会生殖医療専門医。専門は生殖内分泌、周産期、がん・生殖医療。

    HP https://www.marianna-u.ac.jp/hospital/reproduction/ 聖マリアンナ医科大学病院

     

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