【インタビューVol.09後編】 小児摂食障害 を改善するには、食事について一切の強制をやめること【医師監修】

2025.10.24

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【監修】小児科医:大山牧子先生(神奈川県立こども医療センター)

【前編の記事はこちら】
 
子どもの偏食には、成長とともに変わっていく「好き嫌い」もあれば、医療の介入が必要な「小児摂食障害」があると話す神奈川県立こども医療センター偏食外来の大山牧子先生。
 
大山先生が2015年に開設した神奈川県立こども医療センター偏食外来はどのような場所で、患者家族にはどのような治療をしているのでしょうか。
患者家族に伝えられる「食べること」のアドバイスは、多くの保護者に参考になりそうです。
 

〈偏食外来での診察は、親子の現在の様子を知ることから始まると話す大山先生。〉

「偏食外来」は指導ではなく保護者と「作戦会議」をする場所

――大山先生が神奈川県立こども医療センター内に立ち上げられた偏食外来はどのような場所ですか?

 

大山

偏食で悩む親子のための外来ですが、新患として受け付けるのは満3歳までです。
摂食技能が完成するのがおよそ24カ月とされているため、その前に治療を始めないと効果が出にくいからです。
オンライン診療も行っていて、オンラインは4歳未満を対象としています。
直接来院していただく場合は保険診療になりますが、オンラインは保険外診療です。

 

――診察はどのようなことをするのですか?

 

大山

診察に当たっては、問診票をしっかり書いてもらいます。
いつから困り始めたのか、授乳はどうだったか、離乳食の各段階はどうだったか。
大人からの取り分け食になってからはどうか。
それから現在治療を受けている疾患はないかなどを確認します。
起床時間や就寝時間、食事時間など1日の生活リズム、幼稚園や保育園などに通っている場合は、そこでの様子も教えてもらいます。
 
それに加えて、診察ではお子さんの様子も観察します。
座っているか、歩いているか、コミュニケーションが取れる年齢の子であれば、単語は出るか、保護者とはどんな会話をしているか。
診察室の中にあるおもちゃでは何に興味を持ってどんなふうに遊んでいるか。
また、遊び方を見ると性格も分かりますね。

 

大山

それらをもとに保護者の方と「作戦会議」をします。
保護者と私はパートナーです。
こちらから一方的に指導をするのではありません。
どうしたら食べられるようになるのかと食べる技能をアップするための作戦を立てて、自宅で実行してもらいます。
自宅での家族と一緒の食事の様子を動画に撮ってきてもらいます。
動画で見るのは子どもの表情と親とのやりとり。
動画をもとに、「次はここをこうするといいかも」「ここをこういう言い方にするともっといいです」と伝えます。

 

〈診察室の一角には、おもちゃで遊べるスペースがあり、この他にも子どもが興味を持ちそうなおもちゃが用意されています。〉

 

――どのくらいの頻度で通院するのですか?

 

大山

子どもにもよりますが、最初は月1回程度です。
0歳台であれば2、3週間間隔のこともあります。
ある程度やり方が分かってきたら2、3カ月間隔で通っていただきます。
終了は、幅がありますが、中央値4回です。
20品目食べられる、薬をやめられる、または薬をサプリメントに変更できる、体重の増えが成長曲線に乗っている、そして何よりも親子がいい表情で食卓に着いているのが通院を終えていいと判断するときです。
子どもだけがいい表情でも大人が苦痛だったら意味がないんです。

子どもの食事では「いつ・どこで・何を食べる」を決めるのが親の役割

――偏食外来に来る家庭にはどのようなアドバイスをされるのですか?

 

大山

まず、子どもには食べることについて一切強制はしないこと。
 
子どもに無理やり食べさせるのが親の仕事ではありません。
「いつ・どこで・何を食べる」を決めるのが親の役割なんです。
「食べるか食べないか・食べる量・食べ方」を決めるのは子どもの役割だと理解してもらいます。

 

💡いつ→生活リズムを整え、食事の時間を一定にします。

食事のタイミングで食べず、後から「今食べる」と子どもが言っても与えてはいけません。
子どもが食べたがったら「そうなんだね。次は○時だよ」と言って終わりにしてください。
その対応は家族全員で統一すること。
「ママはダメって言うけど、パパはくれる」という状況をつくらないことが大切です。
また、1回の食事時間は15~30分を目安に。
5分は短過ぎますが、30分以上座らせているのは大人も子どももつらいだけ。
最初の10分で必要な食事量の8割を食べていると思ってください。

 

💡どこで→食事をする空間を調整します。

「座り方」は特に大事で、足の裏全体が床または足台についていないと、落ち着きませんし、下腹部に力が入りません。
下腹部に力が入らないと、食べ物をかじって飲み込むという微細な運動の練習ができないのです。
ちょうどよく調整しても、子どもの背が伸びると位置関係が変わるので、最低でも半年に1回は見直しましょう。
2歳までは3カ月に1回調整します。
位置が合わなくなると、立ち上がることも増えます。
大人が食べるところを見せるためには、子どもと横並びでなく向かい合わせに座った方がいいでしょう。
 
テレビや動画を見ながらの「ながら食べ」は、だらだら食べる原因になるのでやめますが、他にも子どもの目線の先に気持ちを奪うものがないか確認しましょう。
何か見る物があるとそちらに気を取られてしまいます。
真っ白な壁が理想的で、食器もキャラクターつきの物ではなく、シンプルな物に。

 

💡何を→偏食の子が「これなら食べられる」という物があると、それだけ与えてしまいますが食べ飽きて食べられる物が減るのはよくありません。

子どもが食べられる物をリストアップして、3日間は全ての食事メニューを変えると飽きにくいです。
子どもが出されている食事メニューと違う物を食べたいと言っても「○○食べたいんだね」と共感しますが言いなりにはなりません。
「じゃあ○○は明日の夕食に出すね」など前向きに約束をして終わりましょう。
「バランスよく食べさせないと」「味付けが濃過ぎると健康によくない」と考えるかもしれませんが、食べられる品目を増やしたいので栄養バランスはそこまで厳密にならなくてもいいです。味付けも少し濃い方がよく食べることがあります。

 

 

――「一切強制はしない」のなら、保護者はどのように子どもの食事に関わればいいのですか?

 

大山

子どもに「食べさせる」のではなくて、「食べるところ」を見せてください。
大人が楽しそうに食べていたら、子どもは興味を持って見に来ますし、おいしそうに食べていたら「おいしいのかな?」と口に入れようとするかもしれません。
「楽しそうに食べる」というのは、食事と全く関係のない会話をしながら食べるという意味ではありません。
おいしいものを食べていたら、表情に出ますよね。
「これはハンバーグだ。ひと口食べてみるか。ジューシーだな」など、大人自身が食べているところを実況中継するのもいいかもしれません。
大人が食べている物を欲しがったら、ほんの少しだけ子どもの前に置いてください。
 
「食べるか食べないか・食べる量・食べ方」を決めるのは子どもの役割なので、前に置いた物を子どもが「いらない」と言うのに食べさせるのは、子どもの役割に介入しています。
「もっと食べたら?」と量の指示をするのも、触ってぐちゃぐちゃにしているのを「食べ物で遊ばない!」と止めるのも強制です。

 

――食べ物で遊ぶのを止めてはいけないのはなぜですか?

 

大山

子どもにとって初めての食べ物はモンスターのように見えます。
食べ物と仲良くなるために、じーっと眺めてみたり、手で触ってみたり、においをかいだり感覚全てを使っているのです。
3歳くらいまでの子どもにとっては、食べることと遊ぶことは同じです。
おもちゃで遊ぶときも同じように眺めたり、手で触ったり、口に入れて味わったりしていますよね。

子どもが「食べない」と拒否したら「今日はパスだね」でOK

――保護者がやりがちで「子どもの食べる気持ちをそいでしまう」ということはありますか?

 

大山

子どもが食べている時に「おいしい?」と味について質問したり、「偉いね!」と褒めたり、評価に結び付く言葉を使わないことです。それよりもユーモアとゲーム性を大事にした声かけをしてほしい。「にんじんさん、お口の中に入っていったね。
どうなるかな?」と面白く実況中継してみても。
 
食べ物に対してネガティブな言い方も避けてほしいです。
子どもが食べるのを嫌がる食品があったときに「これ嫌いなのね」「嫌だったんだね」と言ってしまうと、子どももまねをして「嫌い!」「イヤ!」しか言わなくなります。
食べなかったときは「そうなんだ。今日はパスだね。また今度ね」で終わらせて、また次の機会にチャレンジすればいいんです。
 
声かけ以外では、1歳前後の発達段階を過ぎてからは、子どもが落とした食べ物をすぐに拾うこともやめましょう。
子どもにしたら「落とした食べ物を拾ってもらう」という新しいゲームになってしまうことがあります。
家が汚れると気になるかもしれませんが、掃除は食事が全て終わってからにしましょう。
「汚されたら嫌だから」と手づかみ食べをさせずに大人がずっとスプーンで食べさせるのも、年齢相応の食べる技術獲得につながりません。一時的なものだと思ってください。

 

――「白い物しか食べない」など特定の食べ物しか食べないという悩みをよく聞きますが、それはなぜでしょうか。

 

大山

3歳ごろまでは色と形で食べ物を判断する時期なので、色の好みが見られます。
0、 1歳ごろは、白、クリーム色、薄茶色をよく好むようです。
大人が似たような色の物を「これも白いね」と言いながらおいしそうに食べていると興味を持つようになり、顔なじみの食べ物が増えて、食べられる範囲も広がっていくでしょう。

 

――子どもの偏食で悩むおうちの方に向けて、メッセージをお願いします。

 

大山

子どもを信じてください。
「この子は食べられるようになるだろうか?」と保護者が疑っていたら、食べられるようになるはずがありません。
偏食外来でも「こんなやり方で食べられるようになるはずがない」と保護者が疑っているとなかなか改善しないのです。
 
保護者自身が楽しく食事ができていることも大事にしてください。
子どもが小さいうちは子ども優先で、大急ぎで味も分からず食事している人も。
同じ食卓に座って、よく味わって、よく噛んで食べている姿を見せて、子どもに「食べるのって楽しそう」と思わせるのが、何より大切です。

まとめ:大人が食事を楽しむことが、子どもの「食べたい」欲につながる

小児摂食障害の子どもに向けて、親がやるべきは「大人が楽しく食べている姿を見せること」。
信頼している親が食べている物は「食べても安心」「おいしそう」だと見えるのです。
つい早食いになりがちなので、大人も自分の食事について見直す機会になるといいですね。

 


https://kcmc.kanagawa-pho.jp/outpatient/spacialist/henshoku_online.html
〈神奈川県立こども医療センター偏食外来:年齢相応の食事をとることができないお⼦さんを対象にした外来。原則3歳未満を対象としてします。〉

《 監修 》

  • 大山牧子(おおやま まきこ)小児科医

    地方独立行政法人 神奈川県立こども医療センター新生児科
    小児科専門医、国際認定ラクテーション・コンサルタント、Infant Feeding Network Association子ども摂食アドバイザー養成講座講師
    神奈川県立こども医療センターで乳幼児摂食障害を対象とした「偏食外来」を2015年から開始。2021年からは偏食オンライン相談を開始。
    母乳育児、補完食、乳幼児摂食障害に関する講演を地域保健師・栄養士・保護者向けに行っている。

     
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    休日・夜間の子どもの症状で困った時は【☎♯8000】

     

    保護者の方が、休日・夜間の子どもの症状にどのように対処したらよいのか、病院を受診した方がよいのかなど判断に迷った時に、小児科医師・看護師に電話で相談できるものです。
    この事業は全国統一の短縮番号♯8000をプッシュすることにより、お住いの都道府県の相談窓口に自動転送され、小児科医師・看護師からお子さんの症状に応じた適切な対処の仕方や受診する病院等のアドバイスを受けられます。
    厚生労働省ホームページ:子ども医療電話相談事業(♯8000)について

     

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